2016年に「亜鉛欠乏症の診療指針」が発表され,亜鉛欠乏症の診断基準・治療法が示された
亜鉛欠乏症は,低出生体重児の乳児期,偏食,慢性炎症性腸疾患,慢性肝障害,糖尿病,腎疾患,高齢者,スポーツ選手,キレート作用のある薬剤の長期使用などで生じやすいとされている
亜鉛欠乏症の症状は,皮膚炎,発育障害,味覚異常,性腺機能不全,易感染性,貧血,骨粗鬆症などであり,これらを見逃さないことが大切である
小児期の亜鉛欠乏症は,乳幼児ではおむつかぶれなどの皮膚炎,小児では低身長が主な症状である。これらの症状がみられた場合,亜鉛欠乏症を鑑別診断に挙げる必要がある
2016年,「亜鉛欠乏症の診療指針」が日本臨床栄養学会ミネラル栄養部会の部会報告として発表された1)。本診療指針は44ページからなり,引用論文数は258編で症例報告の紹介も多く,詳細に記載されている。本稿では,本診療指針の概要を紹介する。
亜鉛欠乏症はわが国でも決して稀ではない。しかし,亜鉛欠乏症に関心を持っている臨床医はそれほど多いとは思われない。亜鉛欠乏症を診断し,適切な治療を行うことにより症状およびQOLは改善するので,亜鉛欠乏症を見逃さないことが大切である。
食事中の亜鉛は主に十二指腸と空腸で吸収される。吸収率は20~30%であるが,亜鉛の摂取量や同時摂取する食品の影響を受ける。亜鉛濃度が高い主な臓器は,筋肉(60%),骨(20~30%),皮膚・毛髪(8%),肝臓(4~6%)である。亜鉛は主に膵液・胆汁分泌を通じて,便から排泄される。また,腸に分泌された亜鉛の一部は,腸管から再吸収される。尿への排泄は少なく,健常成人で約0.5mg/日である。
エネルギーおよび各種栄養素の1日当たりの摂取量基準が「日本人の食事摂取基準」として厚生労働省から発表されている。表1 1)2)に2015年版の亜鉛の食事摂取基準を示す。一方,厚生労働省の2014年「国民健康・栄養調査」では,実際の摂取量が発表されている3)。男女ともに亜鉛摂取量の中央値は推奨量よりやや少なく,不足気味である。特に,妊婦・授乳婦の亜鉛摂取量は,中央値がそれぞれ7.6mg/日,8.0mg/日と,推奨量(それぞれ10mg/日,11mg/日)に比べて著明に少ない。
亜鉛は300種類以上の酵素の活性化に必要な成分で,核酸代謝にも重要な役割を持ち,蛋白合成全般に不可欠なミネラルである。主な亜鉛酵素は,アルカリホスファターゼ(ALP),アルコール脱水素酵素などである。
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