頭頸部再建については,微小血管吻合の発展により近年では遊離皮弁による再建が主流となっている。しかし,放射線治療後の症例,再建後の再発症例,サルベージ症例など血管吻合にリスクのある症例では,有茎皮弁のほうが有利である。
大胸筋皮弁は,1979年にAriyanが初めて報告した,鎖骨下動脈から分岐する胸肩峰動脈を茎とし(有茎),再建部位に隣接する幅広い筋体を有する有用な筋皮弁である。その一方で,Ariyanの原法では,①皮島の血行が不安定である,②可動域に制限がある,③組織量調整(小さな皮島や薄い皮弁の作製)が困難である,などの問題点が挙げられる。筆者らは,これらの問題点を臨床での工夫や基礎研究により克服してきた。
皮島の血行については基礎研究により明らかになった第4肋間内胸動脈前肋間枝の穿通枝(Ⅳ-A)を必ず皮島に含ませることで,安定した血行を得ることができるようになった。また,この筋皮弁を鎖骨下のルートを通して頭頸部に移動する工夫により,原法に比べて約8cmの到達距離の延長を可能とした。
一方,小さな欠損に対しては,従来の大胸筋皮弁とは血行形態の異なる内胸動脈第3穿通枝を用いた皮弁での再建を行っている。この方法には,従来型に比べて小さく薄い皮島の採取が可能であること,また,血行がより安定していること,などの利点がある。
以上より,大胸筋皮弁は現在でも欠かすことのできない,頭頸部再建において必要不可欠な再建材料である。
【解説】
田中宏明*1,清川兼輔*2 *1久留米大学形成外科・顎顔面外科 *2同主任教授