▶受動喫煙防止対策を巡り、15日に開催された自民党厚生労働部会。多数のメディアが殺到したため、記者らは規制線の張られた廊下で会議室の扉越しに漏れ聞こえる声を拾ってはメモを取っていた。そんな中、一際明瞭に聞こえた一幕があった。
▶それは、「喫煙可」などの表示をすれば飲食店での喫煙を認めるという党の“妥協案”について、三原じゅん子参議院議員が「これでは病気を抱える従業員が煙に曝されてしまう」と指摘した時のこと。1人の議員が「働かなくていいんだよ!」と野次を飛ばしたのだ。自身もがん罹患経験を持つ三原氏は憤りを露わにし、「がん患者や弱い立場の人は働く権利さえないと言うのか」と猛反発した。
▶部会の様子が三原氏のブログで報告されると、全国がん患者団体連合会は抗議の声明を発表。野次の主は大西英男衆議院議員と判明し、大西氏は陳謝したが、「がん患者が無理に飲食店で働く必要はないとの趣旨だった」と発言は撤回しなかった。
▶副作用の少ない抗がん剤の登場により、がん治療の場の中心が外来に移行するにつれ、治療と就労の両立を望む声は高まっている。一方、厚生労働省研究班の調査によると、退職したがん患者の4割以上は診断から初回治療までに退職に至っている。2014年に開かれた厚労省検討会では、患者代表委員がその理由として「職場への申し訳なさ」のほかに「受動喫煙対策が不十分」などを挙げている。がん患者の就労環境は依然として厳しい。
▶病気を抱える人の就労・離職防止支援は、「一億総活躍」「働き方改革」を掲げる政府与党の重要施策であるはずだ。就労意思のある患者と、彼らを支援する医療従事者の思いを踏みにじる発言が、与党議員の口から出たことに失望を禁じえない。