5月上旬、尊敬する2人の医師が3日違いで旅立たれた。永井友二郎先生と村上智彦先生。2人の想いや生き様には共通するものが多いと感じる。
永井先生は5月8日、自宅で家族が看守るなか永眠された。うっ血性心不全、98歳であった。4月20日に介護ベッドが搬入されたわずか2週間後の旅立ち。亡くなる前日まで完食されたという。利尿剤などの心不全治療は拒否する一方、在宅酸素は喜んで受けられたとのこと。延命治療は拒否し緩和ケアの恩恵には与りながらの大往生であったようだ。
永井先生は患者さんの側に立つ医療を実現するため「実地医家のための会」を立ち上げ、やがて日本プライマリ・ケア学会に発展した。現在広く議論されている在宅医療や総合診療の源流を切り拓かれた。千葉医大を卒業後、3年半帝国海軍軍医を務められた。第二次世界大戦における西太平洋トラック島での平安丸被弾による臨死体験が、「死ぬときは苦しくない」という持論に影響を及ぼしたという。生涯現役の医師として人生を全うされた先生の生き様は、多くの医師に大きな励みを与えた。まさに巨星であった。
厚かましくも、永井先生に3つの点でシンパシーを感じる。1つ目は、人を診る医療についてネットを駆使して広く情報発信しておられたことだ。不肖私も同様の動機でネットで様々な発信をしている。2つ目は著書のタイトルだ。永井先生の名著『死ぬときは苦しくない』というタイトルは、私の近著『痛くない死に方』と似ている。これは訃報の後に気がついたことで、決して真似たわけではない。3つ目は、町医者として患者さんと深く関わり、在宅看取りに誇りと喜びを感じていたことだ。奥さまと2人で地域の人を「看取る」医療を55年間、町医者として実践された。私はまだ23年目なので永井先生の半分にも満たない。
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