改正道路交通法は高齢運転者対策を充実
認知症の原因疾患によって交通事故の危険性が異なる
かかりつけ医は高齢患者の運転状況を確認する責任がある
認知症のおそれがある高齢者は医師受診が義務に
認知症と診断した患者にはできるだけ自主返納を促す
MCIは運転免許取消等の対象にはならない
近年、認知症高齢運転者の関係した自動車事故が社会問題となっている。超高齢社会に突入したわが国では高齢運転者の数が増加し、2016年末では75歳以上の運転免許保有者が約513万人いる1)。この人数は当然、認知症を有する運転者数の増加に結びつき、現在、認知症で運転免許証を持つ75歳以上の人は10数万人いるものと推定される(2015年に行われた認知機能検査において「第1分類:認知症のおそれ」と判定された人の割合が3.3%であったこと2)より勘案)。
また警察庁によると、15年の交通事故第1当事者(事故当事者のうち最も過失の重い者)の年齢層別死亡事故件数(免許保有者10万人当たり)は、75歳未満の4.0件に対して75歳以上では9.6件と2倍以上になっている。さらに75歳以上の運転者による死亡事故のうち、事故前に認知機能検査を受けていた人の49%が「認知症のおそれあり」または「認知機能低下のおそれあり」と判定されていた。これらの調査から、認知機能の低下が高齢運転者による交通事故に影響を及ぼしていることが推測される。このような社会情勢の中、今回の改正道路交通法(17年3月12日施行)はこれまでの高齢運転者対策を一層充実させる方針となっている。
運転能力に関する要因は多岐にわたるため、運転免許の適否は運転適性を最もよく評価できる路上での実車テストで本来行われるべきであろうが、いまだ実現される状況ではない。現在の我が国では道路交通法上、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・血管性認知症・前頭側頭型認知症の4大認知症患者は一律に運転が禁止されている。今回の改正道路交通法では、医師による認知症の診断を参考に都道府県公安委員会が免許の取消等の判断(行政処分)を下すことになっている。認知機能検査で認知症のおそれがある(第1分類)と判定された人の手続きの流れについては図1や別稿(8〜9頁)を参照していただきたい。
認知症の原因疾患によって運転行動に特徴があり、また交通事故の危険性も異なるとされる。運転行動の特徴は、最も頻度の高いアルツハイマー型認知症では運転中の行き先忘れや駐車・幅寄せの拙劣さ、レビー小体型認知症では注意・集中力の変動による運転技術のむら、血管性認知症では注意散漫やハンドル・ブレーキペダルの操作遅れ、前頭側頭型認知症では交通ルール無視・わき見運転・車間距離が短い等が指摘されている3)。
表1は認知症の原因疾患別の交通事故率を調べたもので、事故危険性は疾患ごとに異なっている4) 。Fujitoらは前頭側頭型認知症とアルツハイマー型認知症の運転行動の差異や事故発生率を検討した結果、両群の運転行動が大きく異なること(図2)、さらに前頭側頭型認知症はアルツハイマー型認知症より事故の危険性が10.4倍高いことを報告している5)。
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