【Q】
国立感染症研究所感染症疫学センターによる「感染症発生動向調査」の定点把握の5類感染症に各週の百日咳,マイコプラズマ肺炎の報告数が載っている。ここに報告されている先生方は実際にどのような方法で検査して百日咳,マイコプラズマ肺炎を診断しているのか。一般の病院,実地医療では百日咳,マイコプラズマ肺炎の診断でペア血清の採取は,なかなか難しいのが現状である。
(1)以前の百日咳の検査で用いられた東浜株,山口株は2012年に製造販売中止となっている。このため一般のクリニックや病院では抗百日咳毒素(pertussis toxin;PT)抗体を用いた検査しか使用できないと思う。また,シングル血清での診断は不十分であると考えている。百日咳の報告は全例ペア血清で診断しているのか。そして報告例には菌の培養もしくはPCR法で報告されている症例も含まれているのか。
(2)マイコプラズマ肺炎の検査方法にも,ゼラチン粒子凝集抗体価法(PA法),loop–mediated isothermal amplification(LAMP法),補助結合抗体価法(CF法),旭化成ファーマ社のリボテストⓇマイコプラズマなどがあるが,どの検査法で報告されているのか。また報告している症例はPA法の場合,ペア血清で診断しているのか。
(3)百日咳やマイコプラズマ肺炎の診断の新技術を。実地医療で近いうちに使用できそうな検査方法があれば。(北海道 T)
【A】
感染症法に基づく届出では百日咳,マイコプラズマ肺炎とも診断法の詳細は報告されないため,正確な実情はわからない。百日咳の診断は臨床症状によることが多く,マイコプラズマ肺炎はPA法によることが多いと推測される
百日咳の血清学的検査には以前,東浜株,山口株に対する抗体価測定法(菌凝集素価法)が用いられていたが,2008年度感染症流行予測調査で健常者でもしばしばこれらの抗体価が高いことが示され1),今日では用いられていない。
現在,血清診断はPT,IgG抗体を測定する方法が主流になっている。ここで,抗体が誘導されるのは咳嗽出現後少なくとも1週間程度を要するため,血清診断は早期診断には適していない。
感染症法に基づく医師の届出では,血清診断法は届出基準に含まれていない。届出の対象は,臨床的特徴から百日咳が疑われ,かつ2週間以上持続する咳嗽および,スタッカートおよびウープを伴う咳嗽発作,または新生児や乳児でほかに明らかな原因がない咳嗽後の嘔吐,または無呼吸発作が認められる場合とされている2)。
全国約3000箇所の小児科定点医療機関において,この届出基準に当てはまる症例があった場合に届出がなされて,集計が行われている。届出には検査法に関する情報は報告されないため,正確な実情はわからないが,今のところペア血清や菌の培養,PCR法などによる診断例は多くはないと推測される。
マイコプラズマ肺炎の届出基準は,臨床症状に加えて分離・同定による病原体の検出,PCR法による病原体の遺伝子の検出,または血清抗体の検出のいずれかが認められた場合とされている2)。届出では,検査法の詳細については報告されないので,本回答では筆者らが2011年に実施したマイコプラズマ肺炎患者の臨床的特徴に関する調査の結果から関連する情報を紹介する。この調査では,マイコプラズマ肺炎で入院した763例から臨床情報を収集した3)。それらの診断法は,PA法が618例,イムノカードが227例,間接血球凝集抗体価法(IHA法)が34例,PCR/LAMP法による遺伝子検出法が10例,CF法が9例であった。また,131例は2種類,2症例は3種類の診断法を用いていた。これらをまとめたものを図1に示す。なおPA法の場合は半数以上がペア血清で検出を行っていた。
この調査では対象が入院例であったため,ペア血清が比較的得やすい背景があったと推測される。外来症例ではペア血清による診断例はこれより少ないと推測される。
百日咳,マイコプラズマともに,高感度で迅速な遺伝子検査が開発されている。日本においては等温で遺伝子増幅反応が進行するLAMP法による検出キットが栄研化学社から販売されている。マイコプラズマの検出キットとして,体外診断薬という位置づけで承認され,保険適用となっている。百日咳の検出キットは現在のところ体外診断薬としては未承認のため,研究用という位置づけであるが,診断にあたり有用な参考情報となる4)。
1) 国立感染症研究所細菌第二部感染症情報センター, 他:病原微生物検出情報. 2011;32:236-7.
[http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/378/kj3782.html]
2) 厚生労働省:感染症法に基づく医師の届出のお願い
[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html]
3) 鈴木里和, 他:病原微生物検出情報. 2012;33: 162-3.
[http://www.nih.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-iasrd.html?start=1]
4) 蒲地一成:SRL宝函. 2013;34(3):41-3.