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内臓逆位とカルタゲナー症候群の関係

No.4690 (2014年03月15日発行) P.62

稲村 昇 (大阪府立母子保健総合医療センター小児循環器科副部長)

登録日: 2014-03-15

最終更新日: 2017-08-08

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【Q】

内臓逆位と指摘されている2歳の女児が湿性咳嗽・喘鳴を主訴に受診した。母親の話によると,軽い風邪をひいた場合でも痰が絡む咳が長引くとのことであった。4歳の姉も内臓逆位を指摘されている。

内臓逆位の中で,カルタゲナー症候群(Kartagener syndrome)の占める割合はどのくらいか(内臓逆位のみの頻度と,症候群を伴う頻度はどの程度なのか)。
また,内臓逆位の中で,どのような症状があればカルタゲナー症候群の検討を行う必要があるのか。また,本例はそれに該当するか。
そして,具体的にカルタゲナー症候群の診断はどのようにして行うのか。もし,かなりの侵襲を伴う検査であれば診断するメリットはあまりないと思うが,いかがか。(埼玉県 I)

【A】

カルタゲナー症候群は全身の線毛器官に超微細構造的欠陥を有する症候群である。一方,内臓逆位の発生には原始結節の線毛機能不全が関係している。このため,カルタゲナー症候群に内臓逆位を合併することが報告されている

カルタゲナー症候群の発生頻度

カルタゲナー症候群の発生頻度は1万5000〜4万人対1人と報告されている。カルタゲナー症候群の50%に内臓逆位が認められると言われている。一方,内臓逆位は8000人対1人と言われ,内臓逆位の10%にカルタゲナー症候群が報告されている1)2)

カルタゲナー症候群の鑑別と本例の診断

カルタゲナー症候群は1933年に内臓逆位,慢性副鼻腔炎,気管支拡張症の3主徴を呈する疾患として報告された3)。幼小児期より慢性下気道感染,慢性副鼻腔炎,滲出性中耳炎を繰り返し,本人もしくは家族に内臓逆位がある場合は本症を疑う必要がある。本例は疑いの対象となる。

具体的なカルタゲナー症候群の診断方法

確定診断は直接,線毛上皮細胞を採取して本症に特有な超微細構造的欠陥を確認する。採取部位は鼻腔もしくは気管支粘膜で,生検によって行われる。小児の場合はやや侵襲的な検査である。

カルタゲナー症候群は全身の線毛器官に先天的な超微細構造的欠陥の存在が電子顕微鏡によって確認され,1977年にimmotile cilia syn­drome(ICS)という呼称が提唱された4)

ICSは慢性の上下気道感染などの線毛運動障害による症状を呈し,約50%の確率で認められる内臓逆位で特徴づけられる疾患である。

内臓逆位の発生には①体の左右軸を決定する遺伝子そのものの異常,②左右軸の情報を心臓形態形成に伝達するシグナル経路の異常,などが原因として考えられている。正常胚の原始結節(node)ではnode細胞に1本の睫毛が存在し,らせん運動によって左向きの一定の流れ(nodal flow)が生じ,この流れによって体の左側を決定する因子が胚の左側に移動するとされている5)。つまり,線毛の機能不全のためにnodal flowが発現されないと左右の規則性が失われる。

ICSの臨床症状は線毛を有する器官の機能不全によるものである。小児でみられる主な臨床症状は咳嗽,中耳炎,肺炎,副鼻腔炎と内臓逆位である6)。幼児では気管支拡張症は6割程度しか陽性にならない。しかし,内臓逆位を伴う症例はそうではない症例より診断される年齢が早い。

ICSのスクリーニング検査には,鼻腔一酸化窒素測定,サッカリンテスト,粘膜線毛クリアランス検査があるが乳幼児では年齢的に難しい。確定診断には,線毛上皮細胞の機能や超微細構造の解析が行われる。検査は鼻腔の擦過もしくは生検,気管支鏡による気管支粘膜の生検によって行われる。二次的な線毛機能不全の可能性を除外する必要があるため,約1カ月間,感染症のない状態で行われる。

ICSの治療は正常な肺機能を維持するために感染予防が主となる。小児期からの予防接種,マクロライド少量長期投与などが行われている。

ICSの予後は比較的良好とされているが,早期に気管支拡張症を併発し,呼吸不全に至る重症例も報告されている。

【文 献】

1)佐藤 俊, 他:日胸臨. 2012;71(増刊):S81-6.
2)TORGERSEN J:Acta radiol. 1947;28(1):17-24.
3)Kartagener M, et al:Beitr Klin Tuberk. 1933; 83:489-501.
4)網谷良一:別冊日本臨牀 新領域別症候群シリーズNo.26 呼吸器症候群. 第2版. Ⅲ. 日本臨牀社, 2009, p632-5.
5)白石 公, 他:Annual Review循環器2004. 矢崎義雄, 他, 編. 中外医学社, 2004, p27-33.
6)Noone PG, et al:Am J Respir Crit Care Med. 2004;169(4):459-67.

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