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大脳白質病変の臨床的意義[内科懇話会]

No.4870 (2017年08月26日発行) P.38

司会: 大内尉義 (虎の門病院院長)

演者: 神﨑恒一 (杏林大学医学部高齢医学教室教授)

登録日: 2017-08-25

最終更新日: 2017-08-23

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  • 【司会】大内尉義(虎の門病院院長)
    【演者】神﨑恒一(杏林大学医学部高齢医学教室教授)


    老年症候群と大脳白質病変(PVH,DWMH)との間には有意な相関がある

    大脳白質病変のリスク因子は,加齢,動脈硬化,認知機能障害

    大脳白質病変は加齢,血圧,血管スティッフネスと正の相関,認知機能,意欲と負の相関を示す

    私たちは高齢医学独自の検査として「総合機能評価」を行っています。認知機能や日常生活動作(ADL),あるいは気分,うつを点数化してデータベースとして保管し,それと画像や血液学的なデータとのつながりなどを研究しています。

    国民生活基礎調査によれば,要介護に至る原因の多くを脳血管疾患が占めています。わが国では脳出血の頻度は降圧療法の進歩によって低下しており,脳梗塞が増えています。若年期から中年期における,いわゆる生活習慣病の管理が非常に大事になります。

    要介護に至る原因で注目されるフレイル

    要介護に至る原因は,75歳以上では転倒,骨折,認知症(前段階の軽度認知障害を含む)が増え,「衰弱」も85歳以上で急激に増えています。しかし衰弱という言葉はnegativeなイメージが強いので,もう少しpositiveな意味合いを込めて,日本老年医学会では「フレイル」という呼び名を使うことを提唱しています。

    歳をとると様々な原因によって,身体的・精神的に機能が低下していきます。そのために要介護は75歳以上で増えていきます。フレイルという状態は,身体の機能の低下,認知症や,うつなどの認知・心理的問題,あるいは独居など社会的,経済的な問題も含めて,概念的に非常に広い範囲を包括します。また,フレイルの過程では様々な疾患が発生します。転倒や骨折,認知症,肺炎などです。このようにフレイルや,様々な疾患の発生によって,しだいに心身の機能が衰え,要介護になります。

    要介護で食事や排泄,整容,入浴などADLが自分1人でできなくなる過程で,日常生活を阻害する病気もしくは症候が徐々に増えることを,老年医学的に「老年症候群」と呼んでいます。

    老年症候群の定義は,必ずしも明確ではありません。加齢,遺伝子,環境など原因は様々であり,通常,単一の疾患を特定することは困難です。具体的な症候として歩行障害や転倒を例にとると,下肢の筋力の低下,バランスの障害,視力の低下,骨・関節の障害や骨粗鬆症,認知機能障害があって足下の段差に気づきにくくて転倒しやすい,COPDや慢性の心不全状態にあって長い距離が歩けないというように,原因は様々です。

    必ずしも原因を1対1で特定することができないので投薬による加療がなかなか難しく,“歳のせい”になりがちです。対処方法がなかなかないのでそのまま様子をみていると,やがてQOLやADLが低下します。これに対処するケアが介入方法として非常に重要になってきます。

    老年症候群とADLの関連

    年齢とともに1人当たりの老年症候群の保有数(食事や入浴,排便コントロールなどの基本ADLができない数)が増えていきます。

    ADLは,具体的な10項目(食事,入浴,移動,移乗,階段昇降,トイレ動作,排尿コントロール,排便コントロール,更衣,整容)で評価を行い,客観的な尺度を用いて点数化することによって,医学研究に持ち込むことができます。

    老年症候群の保有数が多い高齢者は,施設などで居住せざるを得ないことが多く,QOLが低下します。老年症候群への対処は難しいのですが,老年医学的には非常に大事な概念です。老年症候群の増加はADLの低下と表裏であり,要介護状態に結びつく直接の原因になることを強調したいと思います。

    老年症候群と大脳白質病変との関連

    老年症候群は様々な原因で起こりますが,実はこれが大脳白質病変と関係があることが明らかになってきました。

    Binswanger病患者のMRI・FLAIR像では,側脳室の周囲に広く強調される白質の虚血性変化が観察されます。Binswanger病のtrias(3徴候)は記銘力障害(認知症),小刻み歩行などの歩行障害,それから尿失禁です。これら以外にもうつ,自発性や意欲の低下,ボーッとする,動作緩慢,筋固縮などのパーキンソニズム症状を伴う例や,仮性球麻痺を呈する例もあります。これらの症状・徴候がたくさんそろう例もあれば,ごく一部のみという例もあります。

    こういう症状を呈する代表的疾患がBinswanger病であり,この疾患に見られるような虚血性白質障害を有するケースは,老年症候群をたくさん持っている例と符号します。白質障害の程度と,症状・徴候の出現にどのくらい関連があるのかというところに,いま関心が集まっています。

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