【Q】
インフルエンザ予防接種後に注射部位を揉むことについて賛否両論があるが,これについて最近の正しい見解を。また,一般の筋注や皮下注射についても,揉んだほうがいいか。(大阪府 W)
【A】
インフルエンザ予防接種後に注射部位を揉む必要はなく,軽く押さえる程度でよい。一般の筋注や皮下注射についても同様であるが,一部の抗菌薬では筋注後に注射部位を揉んだほうがよい場合もある
現在の『インフルエンザ予防接種ガイドライン』1)には,「インフルエンザ予防接種後には注射部位を揉まずに血が止まる程度に押さえるだけでよく,揉む場合でも数回程度にとどめる。あまり強く揉むと皮下出血を来すこともある」とあり,ほかの文献にも同様の記載がある2)〜4)。
かつては,注射部位を揉むことにより硬結を予防したり,良い免疫獲得効果が得られたりすると考えられ,推奨されたようであるが,インフルエンザワクチンに関してそのようなエビデンスはない。
DPTワクチンに関しては,Hsuら5)が,ワクチン接種後に揉むことで,より良い免疫獲得が得られると一度は報告しているが,後に同グループのHuangら6)が,揉んだ場合でも免疫獲得には差がなく,揉むとかえって局所の疼痛や硬結が増えると報告している。インフルエンザワクチン接種後に接種部位を揉んだほうがよいというエビデンスはなく,ガイドライン通り,注射部位は揉まずに軽く押さえる程度にすればよい。
『インフルエンザ予防接種ガイドライン』1)や『予防接種必携』2)には,インフルエンザワクチン以外のワクチンに関して接種後に揉むかどうかに関する記載はない。また,ワクチン接種後に揉むか揉まないかの報告は,DPTワクチン接種についての前述の2つ程度しかない。
『予防接種に関するQ&A集』3)には,「以前は接種後に接種部位を揉んでいたが,免疫獲得への影響に差がないこと,強く揉むと皮下出血を来すことがあることから,近年はあまり推奨されていません。軽く圧迫するにとどめておけばよい」と記載されており,積極的に揉むことを推奨する報告もない。したがって,予防接種後の注射部位は揉まずに軽く押さえておけばよい。
予防接種以外で比較的頻度の高い処置としては,アナフィラキシー治療のアドレナリン筋肉内注射がある。注射部位を揉むことによって,筋肉内に注入された薬液が拡散,吸収される時間を短縮できる可能性はあり,そのような切迫した状況では,揉むことは悪くはないであろう。ただし,そのことを積極的に勧めるようなエビデンスはなく,添付文書にも揉むかどうかに関する記載はない。
一方,ホルモン製剤のリュープロレリンの添付文書には,「注射部位を揉まないように患者に指示すること」と記載されている。これに対して,いくつかの抗菌薬(セフメタゾンⓇ筋注用,硫酸ストレプトマイシン注射用1g「明治」Ⓡ,硫酸カナマイシン注射液1000mg「明治」Ⓡ,ゲンタマイシン硫酸塩注射液10mg「日医工」Ⓡ,トブラシンⓇ注小児用10mg,注射用パニマイシンⓇ100mg,イセパシンⓇ注射液200,ビスタマイシンⓇ筋注500mg)の添付文書には,筋肉内注射した後は「硬結等を防ぐため,注射直後に局所を十分に揉むこと」などと記載されている。しかし,現在抗菌薬を筋注で使用しなければいけない状況はほとんどなく,一般的な筋注や皮下注射では,揉まずに軽く押さえればよいと考えてよい。
1) 予防接種ガイドライン等検討委員会:インフルエンザ予防接種ガイドライン. 予防接種リサーチセンター, 2013, p11.
2) 予防接種ガイドライン等検討委員会:予防接種必携. 予防接種リサーチセンター, 2013, p97.
3) 岡部信彦, 他:予防接種に関するQ&A集. 13版. 日本ワクチン産業学会, 2013, p49.
4) 粟津 緑:小児内科. 2007;39(10):1572.
5) Hsu CY, et al:Pediatr Infect Dis J. 1995;14 (7):567-72.
6) Huang FY, et al:Acta Paediatr Taiwan. 1999; 40(2):166-70.