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第1章 実は,鼻炎は「様々」[特集:アレルギー性鼻炎のトータルマネジメント]

No.4687 (2014年02月22日発行) P.6

編集: 大久保公裕 (日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学分野教授)

藤倉 輝道 (日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科准教授)

登録日: 2014-02-22

最終更新日: 2017-09-13

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Point 1 アレルギー性鼻炎は過敏性非感染性の鼻炎に分類される。

Point 2 病理組織学的炎症の範疇には入り難いが,臨床上は鼻炎と称される多くの疾患,病態がある。

Point 3 アレルギー性鼻炎には,ダニなどが原因となる通年性と,主として花粉が原因となる季節性がある。後者には花粉−食物アレルギー症候群を伴うケースもある。

Point 4 アレルギー性鼻炎は,かぜ症候群に代表される感染性の急性鼻炎と,急性・慢性副鼻腔炎との鑑別を要することが多い。非感染性の好酸球性副鼻腔炎は難治性であり,注意を要する。

Point 5 生理的かつ正常な鼻粘膜の防御反応を不適当に認識して医療機関を受診する患者がいることを念頭に置く。

1 鼻粘膜過敏性の亢進

まず,『鼻アレルギー診療ガイドライン2013年版』(以下,ガイドライン)による鼻炎の分類を確認する表11)。鼻炎は感染性,過敏性非感染性,刺激性,その他に大きく分類されている。鼻炎とは広く鼻粘膜の炎症を指して用いられる疾患名であり,病理組織学的には滲出性を呈する。化膿性,アレルギー性が多く,いずれも血管からの液性成分の滲出,浮腫,細胞浸潤,分泌亢進を特徴とする。

生理的防御機能によって,鼻は異物を吸入すると即座にくしゃみ,鼻漏などを起こし,これを排出しようと反応する。それでも異物が侵入すると鼻閉を起こし,これをシャットアウトする。化学物質や胡椒など,刺激物質の侵入に対する正常な反応である。

アレルギー性鼻炎では,感作されている特定の物質,花粉などを吸入すると同様の反応が起こるようになる。これが抗原特異的な過敏症状である。感染性の炎症あるいは非感染性の炎症(アレルギー性炎症が代表例)が起こり,さらに炎症の反復・遷延化が生じると,今度は非特異的な過敏性(non-specific hyperresponsiveness)の亢進が起こる。

非特異的な刺激の代表的なものは冷気とそれによる過敏症状で,健常者に比しその反応閾値の低下が認められる。強い芳香なども同様の刺激となる。この過敏性亢進のメカニズムとしては,鼻粘膜上皮の防御機構の破綻や刺激受容体の感受性の増大,数の増加などが仮説として考えられる。下気道でも同様の病態が考えられ,気管支喘息の病態を考える上で参考になる。アレルギー性鼻炎では最小持続炎症(minimal persistent inflammation)という病態が想定されており,抗原に曝露されていない時も炎症が遷延化することが知られている。

鼻炎を理解する上で難しい点は,厳密にはこのような病理組織学的炎症の範疇には入り難いが,臨床上は鼻炎と称される多くの疾患が存在することである。その多くが非特異的過敏性を有し,過敏性非感染性 非アレルギー性鼻炎という臨床像を呈する。

本稿では解説を進めるにあたり,まず表1 1)を概説する。アレルギー性鼻炎は鼻過敏症の一種である。症状はくしゃみ,鼻漏,鼻閉の充全型もあれば,くしゃみ・鼻漏型,鼻閉型もある。これらは,時にタイプが移行し複雑な症状を呈する複合型である。アレルギー性鼻炎は,通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎に大別される。欧米では異なる分類になっており,症状が週に4日以上で4週間以上続く「持続性アレルギー性鼻炎」と,症状が週4日未満または4週間未満の「間欠性アレルギー性鼻炎」と記載されることもある。もちろん,単純に前者が通年性,後者が季節性というわけではない。

外来で最も頻回に遭遇する鼻炎は,「鼻かぜ」と称される感染性の鼻炎である。主としてウイルス感染に伴う急性鼻炎と,これに引き続き生じる急性副鼻腔炎,そして慢性 副鼻腔炎も,患者側からすればやはり「鼻炎」であり,医師が適切な診断を行い治療法を選択する必要がある。頻度は少ないが,一見するとアレルギー性鼻炎と類似の臨床像を呈するが,原因抗原を同定できない非アレルギー性の鼻過敏症として血管運動性鼻炎(欧米では本態性鼻炎)と好酸球増多性鼻炎がある。自律神経系の関与する過敏症状も多い。また,ある意味,環境要因に影響を受けた正常かつ妥当な生理反応である場合も多い。そこにストレス,うつ病,神経症なども加わり執拗な症状に悩まされる患者もいる。鼻炎と言っても実に様々であり,症例数も非常に多く,臨床医が時に悩まされる疾患でもある

誌面の都合上,これら疾患すべての詳細な解説は成書に譲るが,臨床上しばしば問題になる鼻炎を中心にその鑑別について述べる。


【文献】

1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン2013年版(改訂第7版). ライフ・サイエンス, 2013, p3.

【執筆者】

 藤倉輝道

2 「通年性」か「季節性」か?

まず,アレルギー性鼻炎そのものについて分類しながら解説する。近年,アレルギー性鼻炎の有病率の上昇は著しい。馬場らの報告によると,2008年の段階でアレルギー性鼻炎全体の有病率は実に40%近くに達しており,1998年からの10年間でおよそ10%も上昇している。通年性アレルギー性鼻炎の有病率は23.4%,花粉症全体の有病率は29.8%と報告されている(図11)

1 通年性アレルギー性鼻炎

通年性アレルギー性鼻炎の多くはダニ(house dust mite)アレルギーであり,カビ,ペットなども原因となる。季節性アレルギー性鼻炎のほとんどは花粉症である。ダニの多くはヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)ならびにコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)であり,これらはヒトの皮膚の落屑を餌として,暖かく湿度の高い状況でよく繁殖する。現代の日本の住環境は密閉されており,温度・湿度も年間を通じて著しい変動がないため,カーペットやマットレス,寝具,ぬいぐるみなどに生息している。仮に,これを掃除機を用いて除去する場合,畳1畳当たり30秒の掃除機がけを週2回行う必要があるとされ,徹底した除去はなかなか困難である。アレルギー患者のいる家庭ではフローリングが推奨される所以である。小児の場合,ぬいぐるみもダニの温床となるため時々洗濯する必要がある。ダニアレルギー患者は年間を通じて不定期に鼻炎症状を呈することになる。ダニの繁殖数の増減,あるいは外気の影響による鼻粘膜のベースとなる過敏性の増減も相まって,不定期に症状の程度は増減するが,患者はおおむね1年中鼻の調子が悪いと訴える。この場合,仮に重複抗原としてスギなどに感作されていても季節性の変動はあまり自覚しないことも多い。すなわち,通年性アレルギー性鼻炎を発症していると,春先に同時に発症している花粉症の症状をあまり自覚しないケースもしばしば経験する。

2 季節性アレルギー性鼻炎

これに対し,季節性アレルギー性鼻炎のほとんどは何らかの花粉症である。日本国内においても,スギ花粉のみならず様々な花粉がその原因となる図2〜41)


もちろんスギ花粉症の認知度は高く,例年国民病として春先に巷間を騒がせる。筆者の勤務地である関東においては,おおむね2〜4月にスギ花粉症,3〜4月にはヒノキ花粉症の季節が到来する。近年,注目されているのがブナ目に属するカバノキ科,ブナ科の花粉であり,ハンノキ図5),オオバヤシャブシなどがこれに該当する。これらは全国各地に自生しており,関東では3~4月に花粉が飛散するため花粉症の原因となる可能性がある。口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome;OAS)の一種で,感作アレルゲンが花粉によるものを「花粉−食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome;PFAS)」と分類し,欧州ではシラカンバ花粉症に合併するバラ科果物によるものが有名である。わが国でも北海道におけるシラカンバはもちろん,関東,関西においてもハンノキによる花粉−食物アレルギー症候群の症例が報告されている。たとえばハンノキに経鼻感作された患者がリンゴなどのフルーツを食べると,口腔内などにアレルギー症状を起こす。

ゴールデンウィークが終わる頃,カモガヤなどのイネ科の花粉症の症状が始まる。イネ科花粉症は秋にも症状の再燃・増悪をみる。このほか,秋の花粉症としては,ブタクサ,ヨモギなどのキク科花粉症がみられる。

診断はまず通年性か,季節性か,持続期間はどれほどか,例年同じ時期に発症するか,アレルギー性結膜炎などの眼症状は伴うか,など詳細な医療面接から始まる。さらに耳鼻咽喉科医は前鼻鏡などを用いて鼻内所見から情報を得る。通年性アレルギー性鼻炎の場合,粘膜の色調は蒼白で浮腫状を呈する(図6)。季節性アレルギー性鼻炎の場合は,感染性急性鼻炎同様に発赤,充血を呈することが多い。また,鼻汁好酸球検査は耳鼻咽喉科医でなくても容易に行うことができる。その鼻炎がアレルギー性のものか否かを診るには非常に有用である。通常,鼻汁中にはほとんど好酸球は認められず,もし鏡検で複数確認されれば,アレルギー性鼻炎もしくは後述の好酸球増多性鼻炎の可能性が高い。RAST(radioallergosorbent test)法などにより血清特異的IgE抗体の測定を行い,自覚症状との合致があるか否かを確認する。

アレルギー性鼻炎である以上,原因抗原の同定は最終的には不可欠である。スクラッチテスト,あるいはプリックテストといった皮膚テストも診断的意義は同じである。最近では過剰反応を想定し,皮内注射による検査は減る傾向にある。保険診療上のコストを考えた場合,RAST法より皮膚テストのほうが安価であり,また,その場で診断可能である。耳鼻咽喉科医は鼻粘膜抗原誘発試験も行うが,鼻内に誘発ディスクを置く手技と的確に鼻内所見を判断する技能が必要であり,検査に用いる市販の誘発ディスクはハウスダストとブタクサのみであるため,確定診断的意義はあるが使用できる場面は限られる


【文献】

1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン2013年版(改訂第7版). ライフ・サイエンス, 2013, p10, 21.

【執筆者】

 藤倉輝道

3 急性鼻炎,急性・慢性副鼻腔炎との鑑別

日常臨床において,頻度的には感染性の鼻炎との鑑別を要することが多い表21)。スギ花粉症で患者が医療機関を受診する時期は冬場でもあり,しばしば感染性の急性鼻炎やかぜ症候群と鑑別を要することが多い。全経過が1~2週間のエピソードであり,経過中に発熱や全身倦怠感や咽頭痛を伴うことが多く,アレルギー性鼻炎との鑑別は比較的容易である。悪寒からくしゃみを伴うことも多いが,表2 1)のようにくしゃみは比較的アレルギー性鼻炎に特異的な症状で,副鼻腔炎などには伴わない。鼻汁は水様性,もしくは粘性であり,患者に尋ねると「白っぽい鼻水」と答えることが多い。嗅覚の低下を訴えることもある。

その後に鼻症状だけが遷延化し,1カ月程度経過しても治らないと訴え受診するケースもしばしば見受けられる。この場合,かぜ症候群の折に鼻粘膜が比較的強い障害を受け,非特異的に過敏性が亢進している可能性がある。これは下気道にも生じることがあり,咳のみが遷延化している場合もある。気道過敏性の亢進という観点から考え,時に各種アレルギー治療薬,特に局所ステロイド薬が奏効する場合もある。



一方で,感染性の急性鼻炎から本格的に急性副鼻腔炎に移行している症例もあり,注意を要する。当初から急性副鼻腔炎を呈しているケースは,それなりの重篤感が窺われる。頬部痛や頭痛が激しく,救急外来を受診し脳CTなどで診断が下されることもしばしばである。耳鼻咽喉科医は内視鏡などを用いて詳細に鼻内を観察し,副鼻腔の自然孔からの膿汁流出を確認することで副鼻腔炎の診断は可能となる。しかし,内科などにおいてはまず先に示した鑑別表(表2)に基づき,医療面接を通じて診断することになろう。鼻汁は粘膿性であり,時に鼻から悪臭を発する。頭痛,顔痛,微熱を伴うことも多い。後鼻漏の訴えも多くなる。可能であれば,副鼻腔X線撮影で副鼻腔陰影の有無をみることで,ほぼ確定診断が可能となる(図7)。



図7は,両側上顎洞底部に陰影が確認された軽症例である。このように上顎洞底部に陰影がある場合,う歯から歯性の上顎洞炎を起こしている場合もある。歯性上顎洞炎の場合,通常の症状は一側性で,片側の鼻汁,鼻閉と頬部痛を伴う。またスギ花粉症のピーク時などでは二次的に急性副鼻腔炎を合併することもある。この場合も上顎洞内にドーム状あるいはポリープ様の陰影を認める。しかし,花粉症の季節が過ぎた後にこのような陰影を認めても自覚症状に乏しい場合が多い。

このように,アレルギー性鼻炎に伴い副鼻腔自然孔が二次的に閉鎖して起こる副鼻腔炎は時折経験するが,抗原そのものが副鼻腔に到達し,その場でアレルギー性炎症を起こすケース,すなわちアレルギー性副鼻腔炎という概念は,病態生理学的には起こりうることではあるが,臨床的には懐疑的とされている。

経過が数カ月に及び,症状が慢性化している場合は慢性副鼻腔炎を考える。症状としては,粘膿性の鼻汁,後鼻漏,鼻閉が続く。急性副鼻腔炎のように発熱や強い頭痛を伴うことは少なく,頭重感を訴える。また嗅覚の低下をしばしば訴える。急性と異なり,慢性副鼻腔炎では鼻閉の原因として鼻茸(ポリープ)の合併を認めることも多い(図8)。中鼻道に小さなポリープが生じている場合,患者がこれで鼻閉を訴えることはほとんどないが,鼻腔に充満していたり,後鼻孔を閉塞しているケースでは強い鼻閉を訴える。



近年,その増加が指摘されている慢性副鼻腔炎として,感染性の副鼻腔炎ではなく好酸球性副鼻腔炎と呼ばれる難治性の副鼻腔炎がある。これは気管支喘息を合併する場合が多く,初期は篩骨洞病変が主で,上顎洞病変が軽微なことが多く両側性である。進行すると多房性のポリープで鼻腔内が充満してくる。手術治療を行っても再発例が多く,また難治性の好酸球性中耳炎を合併するケースが認められる。類縁疾患としてアスピリン喘息が知られている。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs;NSAIDs)により喘息発作が誘発され,気管支喘息自体は重症例が多く,成人に多い。ポリープを高率に認める。真菌によるアレルギーも病因のひとつとして考えられている。感染型の慢性副鼻腔炎とは治療方針も大きく異なり,専門医による診断・治療が必要である。主として喘息合併の有無など,臨床像からまず鑑別を行う必要がある。当然ながら疾患の病態生理に伴い鼻汁中には多数の好酸球が認められ,後述の好酸球増多性鼻炎との関連が示唆されている。


【文献】

1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン2013年版(改訂第7版). ライフ・サイエンス, 2013, p22.

【執筆者】

 藤倉輝道

4 過敏性非感染性 非アレルギー性鼻炎

このカテゴリーはアレルギー性鼻炎との鑑別が難しい。アレルギー性鼻炎様の鼻過敏症状を呈する患者の中で,血管運動性鼻炎は7%程度,好酸球増多性鼻炎は2%程度含まれている。いずれも成人に多く,症状も非典型的である。その存在を意識すれば診断は可能である。

1 好酸球増多性鼻炎

好酸球増多性鼻炎では鼻汁好酸球検査は陽性となるが,その他のアレルギー検査では陰性となり診断可能となる。もちろん抗原が特定できないアレルギー性鼻炎が含まれる可能性は否定できない。アレルギー性鼻炎治療薬が有効であるため,厳密な診断がなされずアレルギー性鼻炎として取り扱われている場合も多い。好酸球増多性鼻炎は症例も少なく,先述の好酸球性副鼻腔炎,アスピリン喘息の初期像を診ている可能性も示唆されている。

2 血管運動性鼻炎

血管運動性鼻炎は,時折外来で見受けられる。読者諸氏においても,通年性アレルギー性鼻炎と考え血清特異的IgE抗体測定などアレルギー検査を行ったが,すべて陰性であったという症例は経験があろう(図9)。


わが国ではその名の通り,古くから自律神経系の機能異常が関与すると考えられてきた。国際的にはこの考え方は否定され,原因不明として本態性鼻炎と名づけられている。この中で最近,local allergic rhinitisという概念が提唱されている。血管運動性鼻炎と診断されているものの中で,鼻粘膜の局所においては抗原特異的IgEが存在し,反応を起こしている症例があると報告されている。通常のアレルギー検査で抗原が特定できなくても,鼻粘膜誘発試験では診断が可能とされる。現状では研究レベルの概念であるが,患者には「このような特殊なアレルギー性鼻炎もあるらしい」と説明することもある〔29ページの5「トピックス─鼻粘膜限局のアレルギー(Entopy)」参照〕。

【執筆者】

 藤倉輝道

5 神経過敏による鼻炎,その他

1 老人性鼻炎

前述の血管運動性鼻炎の中にも,従来の概念通り,ある種の神経過敏により生じるものもある。わが国の高齢社会到来を受け,近年著しく増えてきているのが老人性鼻炎である。血管運動性鼻炎との区別が難しいが,高齢男性に認められることが多く,大量の水様性鼻汁が特徴である。抗ヒスタミン薬が効きにくいと言われている。病態生理はまだ十分解明されていない。

2 味覚性鼻炎

ラーメンなど熱い食物,刺激の強い食物を摂食中に,水様性の鼻漏が止まらなくなることがある。これは味覚性鼻炎と称され,何らかの神経過敏が関与すると考えられるが,この機序も不明である。

3 寒冷刺激による鼻炎

同じ鼻漏型の鼻過敏症として,寒冷な空気の吸入により生じるskier’s noseが古くから知られている。乾燥した冷気が鼻粘膜の非特異的過敏性を亢進させることは,経験的にもよく知られている。また,アレルギー性鼻炎ではmorning attackと呼ばれる起床後数時間内の鼻症状の悪化が観察される。一部は自律神経系の不調が関与すると考えられており,健常者でもこの現象は認められる。朝起きてしばらくの間くしゃみ,鼻漏が続くが,朝食を終え活動に入ると自然に症状も落ち着く。アレルギー性鼻炎患者であればクロノテラピー(時間治療)の工夫が必要となるが,健常者では病態生理を説明するにとどめ,抗ヒスタミン薬などの投薬は最小限に抑える

寒冷刺激が鼻腔への吸入ではなく手足などに働いた場合は,うっ血型,すなわち鼻閉を主訴とする鼻炎を起こす。寒冷刺激により反射性の鼻粘膜容積血管の拡張が起こるためと考えられている。うっ血型で比較的多いのは妊娠性鼻炎である。妊娠中期以降に起こることが多く,エストロゲンの鼻粘膜血管および自律神経受容体に対する作用が原因と考えられている。外来で患者から相談を受けた際には,発症メカニズムを説明すると納得し,薬の処方なしで済むケースが多い。また,精神的ストレス,うつ病,神経症に伴う心因性鼻炎も多い。

4 不適当な認識によるもの

国際的なガイドラインとして2001年にまとめられた『アレルギー性鼻炎とその喘息への影響』〔Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma(ARIA)2001〕でも触れられているが,「正常な鼻症状の不適当な認識」も実は少なからず経験する1)。鼻は吸入した空気から下気道を防御するために,まず汚染物や粒子を排除するフィルターの働きをする。さらに適度な湿り気を吸気に与え,保温した上で下気道に送り込むためのエアコンディショナーの働きを有する。これに伴う刺激によるくしゃみ,反応性の分泌亢進,鼻閉は冷気や汚染された空気から身を守るための正常な反応である。これを異常と認識し,医療機関を訪れる患者も多い。詳細に症状の出る状況や程度を確認し,よく鼻の生理機能を説明する。過度な投薬は控えるべきである。冬場の空気の乾燥や暖房による室内の湿度の低下が伴うと,鼻粘膜の本来の生理機能では対応が困難となり乾燥性鼻炎を呈してくる。これは,症状の程度に差はあるが誰でも経験しうることである。文字通り粘膜が乾燥し,痂皮の付着や軽度の鼻出血を伴う。鼻腔内の乾燥による違和感,鼻閉感を生じる。マスク着用の呼気による加湿や,加湿器の使用を推奨し対応する。

5 萎縮性鼻炎

本来,鼻腔はその生理機能を果たす上で適度な通気抵抗は必要である。手術やレーザー治療などで過度な鼻粘膜の減量を図ると,鼻腔内の気流が乱れ,患者は逆に鼻閉感を感じる場合があるので外科的治療の際には注意を要する図10)。はなはだしい異臭と痂皮の付着が見られる旧来の萎縮性鼻炎患者は近年ほとんど目にすることはないが,このような医原性の萎縮性鼻炎を目にすることがある。この場合の治療は困難であり,訴訟につながることもあるので注意を要する。

6 鼻中隔彎曲症

厳密には鼻炎ではないが,鼻中隔彎曲症も臨床現場ではしばしば対応が求められる(図11)。左右の鼻腔の広さが均一で,鼻中隔の偏位や突出がまったくなく正中に位置するケースはむしろ少ない。しかし,過度な彎曲は外科的治療の対象になる。突出側は当然鼻腔が狭くなり鼻閉を感じるが,凹側も下鼻甲介の代償性肥大を呈し肥厚性鼻炎となるため,結局は両側の鼻閉を訴えることになる。

【執筆者】

 藤倉輝道

6 診療上の留意点

以上のように鼻炎と言っても実に多岐にわたる。最後に触れたように,鼻の生理作用を考えた場合,ある程度は正常範囲内と認識すべきものも多いのが実状であり,特にこの点は強調しておきたい。また,加齢変化に伴う症状も,高齢社会の到来を考慮するとこれから問題となるであろう。一方で,小児の花粉症なども増えており,小児副鼻腔炎では耐性菌の関与によって難治化するケースもみられる。

アレルギー性鼻炎・花粉症の診断と治療の詳細は第2〜4章に譲るが,ここに触れたような疾患ならびに正常状態との鑑別を常に念頭に置き,診療にあたって頂きたい。


【文献】

1) Bousquet J, et al:J Allergy Clin Immunol. 2001;108(5 Suppl):S147-334.

【執筆者】

 藤倉輝道

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