株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

アレルギー性鼻炎Q&A[特集:アレルギー性鼻炎のトータルマネジメント]

No.4687 (2014年02月22日発行) P.72

編集: 大久保公裕 (日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学分野教授)

増野 聡 (日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科助教)

登録日: 2014-02-22

最終更新日: 2017-09-13

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Q1 何歳頃からスギ花粉症になるのでしょうか?

【回答】

ハウスダストによる通年性アレルギー性鼻炎が小児の病気であるのに対し,スギ花粉症は若者の病気であるというのがこれまでの認識であった。アレルギー疾患では抗原に感作されて抗原特異的IgEが出現するため,季節性のスギ花粉では飛散期に感作されても非飛散期にすぐ減少し,毎年感作を繰り返し免疫機構の成熟も重なって10代後半から発症するというのが通説であった。

しかし近年は,小児期のスギ花粉症の発症が増加傾向にある。就学前の幼児でも春になるとくしゃみ,鼻汁,目のかゆみがあり,血液検査を行うとスギ特異的IgEが陽性であるという場面に遭遇する。生活環境の近代化や大気汚染も関与しているだろうし,昭和40年代に植林されたスギが抗原力の強い花粉を飛ばす樹齢まで成長したというのも原因のひとつであろう。

スギ花粉症の低年齢化は小児期のQOL低下をもたらし,学習能力の低下につながる懸念があるが,同時に喘息発症のリスクを上昇させる問題もある。実際,7歳未満のアレルギー性鼻炎の罹患は喘息への移行のリスクを上げるとの報告もあるため,幼児期のアレルギー性鼻炎の診断は正確に行われることが望ましく,診断がつけば早期のアレルゲン免疫療法の開始も検討すべきである。

同時に幼児期には感染性の鼻炎も多く,アレルギー性鼻炎か否かの診断が困難である。両親や兄弟にアレルギー疾患があるかという家族歴や,患児に幼児湿疹,下痢,アトピー性皮膚炎,小児喘息などのアレルギー歴があるかについての聴取を手掛かりに,可能であれば疑わしい症例には積極的に血清総IgEと抗原特異的IgEの測定を行って頂きたい。

Q2 アレルギー性鼻炎は自然に治りますか?

【回答】

アレルギー性鼻炎は小児喘息やアトピー性鼻炎に比べて自然寛解が少ない。奥田1)によると,小学校1年生を対象とした5年間の追跡調査では,アレルギー性鼻炎の軽快は 15.2%であったのに対し,喘息様咳嗽,皮膚アレルギーはそれぞれ45.4%,26.3%であり,アレルギー性鼻炎の寛解率が低いことが示されている(図1)。


また,通年性アレルギー性鼻炎は自然寛解にある程度期待が持てるものの,スギ花粉症は自然軽快がほとんどないと考えられている。初期は軽症のため薬物療法で症状を抑えられていても経年的に症状が重症化することが多く,軽症例であっても好酸球数,血清総IgE,抗原特異的IgEが高値の場合には十分な注意が必要である。

スギ花粉症に対するアレルゲン免疫療法では,軽症例では治癒に至る可能性が高いことを考えると,ある程度重症化が予測される患者には早期のアレルゲン免疫療法の導入が望ましい。


【文献】 

1) 奥田 稔:鼻アレルギー ─ 基礎と臨床. 医薬ジャーナル社, 2005, p155.

Q3 アレルギー性鼻炎の手術とはどのようなものですか?

【回答】

アレルギー性鼻炎の手術には,外来で行う日帰り手術から入院で行う全身麻酔の手術まで,様々なものがある(表1)。


(1)鼻粘膜の縮小と変調を目的とした手術

病院の外来やクリニックで行われるレーザー治療や電気凝固などの外来手術がこれにあたる。鼻粘膜すべてを手術することは無理なので,下鼻甲介をターゲットにして手術を行う。

①レーザー治療

レーザー治療は鼻粘膜上皮の蒸散を目的とする。

CO2,YAG,KTPレーザーなどが用いられる。下鼻甲介の前端・内側面・後端を可及的・広範囲に蒸散し,下鼻甲介の容積の減量を図る(図1)。十分にキシロカインを浸したガーゼで表面麻酔を行えば痛みはほとんどないが,術後に痂皮がつき一時的に鼻腔が閉塞することがある。



通年性アレルギー性鼻炎に対しては重症例で定期的に行う。また,スギ花粉症に対しては季節前に数回行うことで,1~2年有効性が続くと言われている。

安全性が高く診療所でも行うことができるため,広く普及している手術療法である。

②電気凝固法

電気凝固法は下鼻甲介の減量による鼻閉の改善を目的として行う。単針を下鼻甲介粘膜に刺入し,粘膜下の組織を凝固させることで下鼻甲介を収縮させて鼻腔を拡大し,鼻閉を改善する(図2)。



レーザー治療と異なり,表面麻酔だけでは不十分なため局所麻酔注射を用いる必要がある点ではやや侵襲が大きいが,鼻閉に対する効果は大きく,術後に痂皮もつかないため不快感が少なく,効果も長続きする。新しいコブレーター,ソムナスなどの機器が考案され,効果を向上させている。

通年性アレルギー性鼻炎に対してもスギ花粉症に対しても有効であるが,スギ花粉症に対してはスギ花粉の飛散期は避けることが望ましい。

(2)鼻閉の改善を目的とした鼻腔整復術

鼻腔は元来,吸気に加温・加湿を行う臓器であり,正常な形態であればその役目を果たすが,異常な形態になれば閉塞する。アレルギー性鼻炎患者の鼻腔閉塞の要因は,大きくわけて下鼻甲介の腫脹と鼻中隔彎曲による鼻腔の狭小化である。内視鏡手術が一般化した近年では,これらの手術も内視鏡下に行われる。全身麻酔下の手術で,一般的には1週間程度の入院を要する。

①下鼻甲介に対する手術

アレルギー性鼻炎による下鼻甲介粘膜の腫脹は,鼻閉の最も大きな要因である。これに対して,下鼻甲介粘膜を切除する下鼻甲介粘膜切除術,粘膜下の下鼻甲介骨のみを切除して容積を減少させる下鼻甲介骨切除術,これらを併せて行う下鼻甲介切除術などがある(図3)。


下鼻甲介は血流が豊富であり,これらの手術では入院治療は避けられず,近年では全身麻酔で行われることが多い。侵襲は大きいが,鼻腔閉塞の改善効果は大きくまた長期にわたり効果が持続するため,特に下鼻甲介腫脹による鼻閉が著しく強い症例では著明な改善が期待できる。

②鼻中隔に対する手術

鼻中隔の彎曲は約90%の人にみられるが,特に彎曲が強く鼻閉を増悪させる原因となる場合には鼻中隔矯正術の手術適応となる。下鼻甲介に対する手術と併せて行われることが多い。

片側より鼻前庭を切開して鼻中隔軟骨から鼻粘膜を剥離し,続いて鼻前庭切開部より少し後方で鼻中隔軟骨を切開して対側の粘膜下に入り,鼻粘膜を剥離する。さらに操作を後方に進め,鋤骨,篩骨正中板を粘膜から剥離したら,彎曲部の軟骨,骨をくり抜くように切除する(図4)。彎曲部のみの骨,軟骨を除去するので外観に変化はない。

(3)鼻漏の改善を目的とした手術

アレルギー性鼻炎による重度の水性鼻漏に対する手術として,現在では後鼻神経切断術が行われている。

従来は翼口蓋神経節からの交感神経線維である翼突管神経(Vidian神経)の切除術が行われてきたが,これは翼口蓋神経節前で神経切断を行うため,涙腺の分泌低下を引き起こしていた。これに対し,翼口蓋神経節後で神経切断を行う後鼻神経切断術は,技術的には内視鏡を使用しなければならないため難度が高いが,この涙腺の分泌低下の副作用がないため,内視鏡手術の普及とともに広く行われるようになっている。

前述の鼻中隔矯正術,下鼻甲介切除術と併せて行われる場合が多い。内視鏡下に中鼻道側壁後端部粘膜を切開し,蝶口蓋動脈に沿って走る後鼻神経を露出させて切断する。手術操作としては下鼻甲介切除術の延長であり,侵襲は小さい。

手術療法でアレルギー性鼻炎を治癒させることはできないが,症状を軽減させる効果は強い。特に薬物療法を行っても症状の軽快が乏しい最重症例では,手術療法を併せて行うことで著明な軽快を得る場合も多く,検討に値する。

Q4 免疫療法(減感作療法)でアレルギー性鼻炎は治りますか?

【回答】

アレルゲン免疫療法は,唯一アレルギー性鼻炎を治癒に導く可能性のある治療法ではあるが,全例で治癒をめざす治療法ではない。皮下注射によるアレルゲン免疫療法でのアレルギー性鼻炎の治癒率は,スギ花粉症では20~30%程度と考えてよいであろう。もともと軽症のスギ花粉症患者では高率に治癒を見込めるが,中等症,重症患者では治癒を望むより症状の軽症化と使用薬剤の減量を目的とする。

主観的な有効率は国際的にもハウスダスト・ダニで80%以上であり,日本におけるスギ花粉症に対する効果も70%以上と考えられており,患者が効果を実感できる治療であることは間違いない。免疫療法が決して治癒を前提にした根治療法ではないことに留意の上,患者に過剰な期待を持たせないようにすべきである。

Q5 ヒノキ花粉症にはどのように対応したらよいですか?

【回答】

ヒノキ花粉症はスギ花粉症患者の大多数で発症しうる。これは,ヒノキ花粉の主要アレルゲンがスギ花粉と高い相同性を示すためである。ヒノキ花粉はスギ花粉の飛散後4月上旬~中旬をピークとして飛散するため,スギ花粉症患者の多くがスギ花粉の飛散後にヒノキ花粉による症状に苦しめられることになる。

近年のスギ花粉症患者の急速な増加は,昭和40年代までに植林されたスギが成長して花粉生産量のピークを迎えていることが大きな要因と考えられているが,昭和50年以降にはヒノキの植林が盛んであり,今後ますますヒノキ花粉症の増加が懸念される。

花粉症の治癒ないし長期寛解が期待できる唯一の治療法であるアレルゲン免疫療法では,現在のところヒノキ花粉抗原エキスは市販されていない。スギ花粉抗原エキスによる免疫療法は,ヒノキ花粉飛散量の多いシーズンではヒノキ花粉飛散期に効果が減弱するとの報告もあり1),スギ・ヒノキ花粉症の根治は困難である。

スギ花粉症の症状発現はアレルギー性炎症が積み重なることによって生ずると考えられており,初期療法は症状発現前から潜在的なアレルギー性炎症を抑制することでスギ花粉症の発症を遅らせ重症化を抑制するが,ヒノキ花粉症についても同様と考えられている。ヒノキの飛散前にスギ花粉症によるアレルギー炎症が強ければ,ヒノキ花粉によって加わったアレルギー性炎症により症状は重篤化する。よって,ヒノキ花粉症の治療にはスギ花粉症のコントロールが必要であり,近年では高い抗炎症作用を持つ鼻噴霧用ステロイド薬が有効と考えられている。

地域のヒノキの飛散時期を考慮した上で,スギ花粉症の初期療法からスギの飛散期,さらにヒノキの飛散期の終了まで長期的な薬物療法を途切れずに行うことが重要であり,また症状が強い患者ではスギ花粉症に対する免疫療法を検討しなければならない。


【文献】

1) 岡野光博:アレルギー免疫. 19(3):384-91.

Q6 花粉症の眼症状にはどう対応したらよいでしょう?

【回答】

スギ花粉症では通年性アレルギー性鼻炎に比べて眼症状を合併しやすく,アレルギー性鼻結膜炎として発症する場合が多い。

アレルギー性結膜炎の治療は薬物治療が中心であり,第一選択は抗アレルギー点眼薬(メディエーター遊離抑制薬,ヒスタミンH1受容体拮抗薬)である(表1)。


ヒスタミンH1受容体拮抗薬はヒスタミンのH1受容体をブロックすることで即時相の充血や眼瘙痒感を抑制する。メディエーター遊離抑制薬は主に肥満細胞の脱顆粒を阻害し,ヒスタミン,ロイコトリエン,トロンボキサンA2などのメディエーターの遊離を抑制することでⅠ型アレルギーの即時相反応を軽減させ,炎症性細胞の結膜局所浸潤を抑制することで遅発相の反応を軽減させる。

これらの点眼薬を鼻炎症状に投与する内服薬,鼻噴霧用ステロイド薬に加えて処方する。アレルギー性鼻炎に対する初期療法と同様に花粉飛散の開始時期または症状出現時とし,眼症状が強い患者には継続使用するように指導する。

また,鼻噴霧用ステロイド薬が季節性アレルギー性鼻結膜炎の眼症状を改善させることが知られている1)。この機序には鼻涙管を介した薬剤の移行や抗炎症作用による鼻涙管の交通の改善などが関与していると考えられてきたが,近年では鼻-眼反射の関与が示唆されている。鼻粘膜と眼瞼結膜の間には神経反射が存在し,鼻粘膜からの求心性神経から三叉神経節を介して眼瞼結膜へ向かう遠心性の副交感神経へと伝達される。鼻噴霧用ステロイド薬は鼻粘膜の炎症反応を抑制し,この鼻-眼反射を抑制することで眼症状を軽快させていると考えられている。


【文献】

1) Origlieri C, et al:Curr Allergy Asthma Rep. 2009;9(4):304-10.

Q7 免疫療法を希望される患者さんはどこに行けば治療を受けられますか?

日本アレルギー学会では,日本アレルギー学会専門医・指導医の一覧が一般向けに公開されている[httpwww.jsaweb.jp/modules/ninteilist_general/]。

地域ごと,診療科ごとの検索機能もついており,まずはこちらで近隣のアレルギー学会専門医を検索して頂き,ご紹介頂くのがよい。

【執筆者】

増野 聡

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top