リベラル派シンクタンクの天才に教えられた人類滅亡のシナリオの1つは、大気中の二酸化炭素濃度の上昇だった1)。それは、キーリング曲線(Keeling Curve)と呼ばれる観察結果をベースとしている(図)。
カリフォルニア大学サンディエゴ校・スクリップス海洋研究所の教授であったキーリング(Charles David Keeling)は、カリフォルニア工科大学時代に空気中の二酸化炭素を正確に測る方法論を確立し,その季節変動を記載した。1958年、キーリングが始めたハワイの高峰マウナ・ロア(Mauna Loa)での経時的二酸化炭素計測は現在でも続けられており、人間の行為により大気中の二酸化炭素濃度が確実に上昇していることの揺るぎない証拠となった。人類の行動は明らかに地球環境を変えているのである。
問題はこの曲線をどう読むかであった。
リベラル派の天才が示した可能性は、キーリング曲線が指数関数の上に乗っている場合の例である。2070年には二酸化炭素の含有量が人類の生存を脅かすまでになる。
正月に、ネズミのつがいが現れ、子を12匹産む。そして親と合わせて14匹になる。 このネズミは、2月に子ネズミがまた子を12匹ずつ産むため、親と合わせて98匹になる。このように、月に1度ずつ、親も子も孫もひ孫も月々に12匹ずつ産む時、12カ月でどれくらいになるかというと、276億8257万4402匹となる。
いわゆるネズミ算である。
指数関数的に増えるという意味をはっきりと理解しているはずの我々にとっても、改めて示されると、ちょっと驚く数である。複雑系である現実の世界では、ある時点で他の因子が重要な働きをする状態に陥り、ネズミ算のような線形近似にはならない。ネズミの増加はそのうち頭打ちになるのである。線形関数の世界では、供給が持続しない限りロジスティク関数(logistic function)となる、と教えられているが、非線形の世界では、周期性を持つことが正解らしい2)。どちらにせよ、二酸化炭素の増加にどの時点でブレーキがかかるのかが勝負の分かれ目である。
シンクタンクの天才が二酸化炭素の増加で問題としていたことは、今では一般常識になっている地球温暖化のことである。しかし、もちろん二酸化炭素の増加そのものでも、温暖化そのものでも人類は滅亡しない。本題は、温暖化で溶け出すことになるメタンハイドレート(methane hydrate)のことであった。事実、彼の心配していたことが現実となりつつある。最初の現象は、永久凍土(permafrost)の融解である。
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