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原爆被爆者施策を原発事故被災地に活かす[プラタナス]

No.4685 (2014年02月08日発行) P.1

振津かつみ (兵庫医科大学遺伝学)

登録日: 2014-02-08

最終更新日: 2017-09-19

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広島・長崎の原爆被爆者は、被爆者援護法に基づいて健康手帳を取得すれば、原爆傷害との起因性の認定を要しない一般疾病で受診しても、医療費の窓口負担分が国庫から支出される。病気になった時に安心して医療機関にかかれることが、被爆者にとってどんなに心強かったことか。また、年2回の健診(血液・尿検査等)と1回のがん検診が無料で受けられる。要件に該当すれば、健康管理手当等の諸手当を受給できる。爆心地から3.5km (外部被曝1mSvに相当)以内での被爆者が、がん・白血病などに罹患した場合は、放射線起因性を積極的に認定する方針が厚労省から出されている。

現行の被爆者施策は、広島・長崎の被爆者と自治体、原水爆禁止運動が長年にわたり国に求め、法整備されてきた。課題は多いが、被爆者が差別を乗り越えて基本的人権の回復を求め、戦争も被爆も「二度と繰り返させない」と強く訴える中で実現させた施策である。

放射線影響研究所による原爆被爆者の寿命調査では、固形癌死のリスクには閾値がない(ゼロ線量が最良の閾値推定値)ことが、2012年に報告された。また、同じ線量の急性被曝と慢性被曝のがん罹患リスクは、ほぼ等しいとの評価が国際的には主流だ。

2011年3月、東日本大震災に伴い東京電力福島第一原発で重大事故が起こり、大量の放射性物質が放出された。文科省発表の汚染地図によれば、放射線管理区域レベル(放射性セシウムなどα線以外の放射線を出す物質で4万Bq/m2以上の表面汚染密度)の地域は、福島県と周辺県を含む広範囲に及んだ。その地域に居住する約400万人の住民は、1年目の外部被曝だけでも1mSvを超える追加被曝をし、その結果、被曝量に応じた将来の健康への追加リスクを被ることになった。また、すでに3万人を超える労働者が、高線量下の事故収束作業に従事している。

原発重大事故の被害は、被災県だけで対応できるものではない。福島県医師会副会長は、「住民の健康管理は国の直轄事業と位置づけるように」と要請した。また、浪江町をはじめ双葉地方町村会からは、「健康手帳の交付、被災者の健診・医療の無料化、社会保障」など被爆者と同等の法整備の要請が国に出された。

国策で進めてきた原発での重大事故である。すべての被災住民と被曝労働者に健康手帳を交付し、生涯にわたる健康管理と医療給付を行うことは、最低限の国の責任であろう。広島・長崎の被爆者施策と健康影響調査の結果を、福島第一原発事故被災地の健康管理と医療にしっかり活かすべきである。

兵庫医科大学遺伝学 振津かつみ(ふりつ かつみ)

大阪医大卒。内科医。大阪在住の原爆被爆者医療に携わる。阪大博士課程修了(放射線基礎医学)。1991年よりチェルノブイリ支援活動、2011年東日本大震災以降、福島第一原発事故被災地で健康相談などに取り組む。12年「核のない未来賞」(ドイツ)受賞。

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