No.4684 (2014年02月01日発行) P.17
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2014-02-01
最終更新日: 2017-09-25
ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査を受けて、がんが発症しているわけではないのに、両方の乳房を切除する「予防切除」の手術を受けたことは記憶に新しい。彼女の場合“BRCA1”という、がんの発生にブレーキをかけるがん抑制遺伝子に変異が見つかり、乳がんにかかるリスクが87%という結果が出た。そのうえにご自身のお母さんを57歳という若さで乳がんで亡くされているためそのような行動に出た。
遺伝子検査の結果を受けて、がんを予防するために乳房を切除する─。こうしたことは、何も海の向こうの話ではない。すでに日本でも始まっている。
先日、新聞を見ていたら、BRCA遺伝子の検査を受けて、両方の卵巣と卵管を予防切除された方の記事が目に留まった。その方は50歳代のおば2人を卵巣がんで亡くし、自分自身の乳がんも遺伝性であることが判明。悩んだ末に手術という選択肢を選ばれた。
また別の記事では、母親と妹を乳がんで亡くし、自分自身も乳がんにかかった女性が遺伝子検査を受けたことが紹介されていた。この女性もBRCA2遺伝子に変異が見つかり、さらに、2人の娘のうち1人と姪っ子にも同じ変異が見つかったという。それ以来、ご本人も姪っ子も半年に一回婦人科健診を受けているという記事だった。
病気になる前に病気になるリスクがわかるということは、一見とても素晴らしいことのように映る。しかし、未来予想図は「100%起こること」ではなく、あくまで確率の問題である。「絶対にがんになる」のではなく、「がんになる可能性が他の人より高い」というだけ。BRCA遺伝子の変異が直接的に乳がんや卵巣がんを引き起こすわけではない。ストレスやタバコ、夜勤といったさまざまな環境要因が加わって、遺伝子に複数の傷がついた結果、発症に至ることは言うまでもない。
開業医にも遺伝子検査の売り込みがすでに始まっている。「遺伝子検査を始めませんか?」という案内がよく届くようになった。遺伝子検査は自費診療であり、予防のための乳房や卵巣・卵管を切除する手術も保険適応とはならない。遺伝子検査は20〜30万円ほど。乳房や卵巣・卵管の切除手術はそれぞれ70〜100万円ほどかかり、乳房を取った後に、再建手術も受けるならもう100万円ほど必要となる。まさに新しいビジネス。このビジネスの窓口として開業医が狙われている。
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