iNPHの歩行障害の3大特徴は,歩幅の減少,足の挙上低下,開脚歩行である
iNPHでは,記憶障害は比較的軽いが,思考のスピードが低下し,いくつかの情報を頭の中にとどめ置きながらその情報を操作するような精神機能が苦手になる。語列挙課題で単語の想起数が減少する
iNPHでは過活動膀胱を認め,頻尿,尿意切迫,尿失禁を認める
iNPHを疑わせる歩行所見は,パーキンソン病よりも開脚,外股,左右差がない,腕の振りがある~大きい,号令や線などのcueや抗パーキンソン病薬による歩行の改善が乏しいことである
アルツハイマー病との鑑別には,iNPHでは記憶障害と見当識障害が軽度であること,歩行障害と排尿障害を病初期から認めることが役立つ
ビンスワンガー病とiNPHは,臨床症状から鑑別することは困難で,頭部MRIでのDESH所見と髄液排除試験で症状が改善することを確認する必要がある
DESHと顕著な記憶障害を認めるが,歩行障害と排尿障害を認めない症例は,3徴が顕在化する前のiNPHにアルツハイマー病を合併した状態である可能性がある
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は3徴,すなわち歩行障害,認知障害,排尿障害を呈するため,これらの症状を有する高齢者の疾患との鑑別が臨床的に重要となる。本稿では,まず鑑別に役立つ3徴の特徴を解説し,次にパーキンソン病,アルツハイマー病,ビンスワンガー病との鑑別のポイントについてまとめる。
iNPHの歩行障害の3大特徴は,歩幅の減少(petit-pas gait),足の挙上低下(magnet gait),開脚歩行(broad-based gait)である1)。また歩行中,外股となり,歩幅が著明に変動することも特徴である。そして,全体として歩行速度は低下し,不安定となる。また,歩行開始時,狭い場所,方向転換時にすくみ足を認めることもある。
iNPH患者では,思考のスピードが低下する。また,いくつかの情報を頭の中にとどめ置きながらその情報を操作するような精神機能が苦手になる。このため,暗算や並行していくつかの作業をすることが困難になる。さらに,自ら発想することも苦手になり,たとえば,「“か”で始まる言葉を1分間にできるだけたくさん言って下さい」というように教示する語列挙課題で,想起できる語数が減少する。
iNPHの記憶障害は比較的軽症のことが多い。たとえば時計,ボールペン,印鑑などの3つの物品を患者に見せて覚えてもらい,かつそれらを机の引き出しなどに隠して,隠した直後に,何があったか,どこに隠したかを聞くと正しく答えられる。そして,約5分後に再度聞いても,隠した場所はだいたいの患者が覚えており,物品名も少なくともいくつかは言えることが多い。また,言えなかった物品でも「時計はありましたか?」というような質問の仕方をすると,正答が増えることが多い。
iNPH患者の認知機能評価には,一般的には,Mini Mental State Examination(MMSE),Frontal Assessment Battery(FAB),Wechsler Adult Intelligence Scale-Ⅲ(WAIS-Ⅲ)の符号課題や記号探し課題,語列挙課題などが用いられる。
iNPHでは過活動膀胱を認める。まず頻尿,特に夜間頻尿が始まり,尿意を感じてから我慢できる時間が短くなる尿意切迫が出現し,尿失禁に至ることが多い。ただし,尿失禁には歩行障害による二次性の要因も加わっていると考えられる。
過去の研究によると,何らかの精神症状を認める頻度は,精神科を受診したiNPH患者で85.7%,認知症専門病院で79.2%,脳神経外科施設で52.6%2)とされている。すべての施設の症例を合わせて頻度の高い順に症状を並べると,アパシー(意欲低下・無欲・無為・自閉など)が70%,不安が25%,興奮が17%であった。興奮,幻覚妄想などの陽性の精神症状と比べると,アパシーは周囲の人に対する負担が少ないように思われがちであるが,実は,運動や食事,入浴,更衣などの生活活動の拒否につながり,患者本人の生命予後を悪化させる重要な症状である。アパシーは,3徴とともにシャント術で改善させることができ,また家族の介護負担の軽減にもつながる3)。
残り4,044文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する