従来,悪性黒色腫(以下,メラノーマ)は予後不良の疾患として知られてきた。皮膚科医でさえも,この腫瘍は予後不良だという固定観念にとらわれている傾向がいまだにみられる。しかし,局所病変のみのメラノーマでは5年生存率が88%で,所属リンパ節のみの転移でも54%であり1),悪性腫瘍としては比較的予後の良いグループに属すると言える。この固定観念ができ上がってしまった理由はいくつか考えられる。それは,効果の高い化学療法がなく,通常の放射線治療法では効果がみられにくいため,進行した場合に有効な治療法がほとんどなかったことが影響したと思われる。さらに,疾患知識の普及が不十分な上に,足底や爪甲部発生例の割合が多く,発見の遅れた進行例が多いという,わが国独特の事情も影響していると思われる。
1840年には既に,Samuel Cooperが「メラノーマは早期発見と早期手術以外に適した治療法がない」ことを述べていたが,この原則は現在でも基本的に変わりはない。進行期のメラノーマに対しては,1970年代になって初めてダカルバジン(dacarbazine:DTIC)という(当時の)特効薬が出現したが,その効果は満足にほど遠いものであった。20世紀末からのセンチネルリンパ節生検の開発によって,メラノーマに対する手術法はある程度完成の域に達したわけであるが,薬物療法は大きな壁に突き当たったままであった。メラノーマは免疫原性が高く多様な腫瘍抗原を発現することから,以前から免疫療法の格好のターゲットとして多種多様な免疫療法が研究・応用されてきたが,これらもほとんどの場合,十分な効果が得られるには至らなかった。
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