心療内科的な片頭痛の慢性化要因には,心理社会的ストレス,精神疾患の共存,認知様式が挙げられる
心理社会的ストレスは,ライフイベントとデイリーハッスルズにわけられるが,いずれもが片頭痛の慢性化要因である
片頭痛と共存し,慢性化につながりやすい精神疾患に,うつ病,パニック障害,恐怖症,身体表現性障害がある
片頭痛などの痛みを有する患者に認められやすい認知様式として,破局的思考が知られている
片頭痛は,基本的に発作的な頭痛であり,月に数日の痛みはあってもそれ以外の日は痛みがなく生活できることがほとんどである。しかし一部の片頭痛は,発作の頻度が増していき慢性化に至ることもあり,一般的な片頭痛の薬物治療に抵抗性を示しやすい。また,慢性化した片頭痛では生活の質が低下しやすいこともわかっている1)。
このような片頭痛の慢性化のメカニズムはまだ十分に解明されているわけではないが,心療内科を受診する慢性化した片頭痛では,身体的な要因のほかに心理社会的な要因が関与していることがほとんどである。「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」では,片頭痛の慢性化の要因として,①先天的要因(家族歴と出生前曝露),②頭痛の性状,③共存症,④外的要因(薬物乱用,カフェイン摂取,頭部外傷),が挙げられ2),共存症では,肥満,いびきと睡眠時無呼吸,精神疾患やストレスの多い生活,顎関節症が慢性化のリスク要因とされている。そのほか,表1に示した通り,心療内科的な片頭痛の慢性化要因として,個々の認知様式も関与しやすい。
片頭痛とストレスとの高い関連性は,多くの研究で指摘されている。心理的ストレスは片頭痛の発現メカニズムである三叉神経血管説におけるトリガーのひとつとして機能しうる。また,疫学的な調査においても,片頭痛患者では84%がストレスを発症因子,89%が増悪因子としており,他の因子よりも高いことが示されている3)。
さて,心理社会的ストレスは,大きくライフイベントとデイリーハッスルズに分類される。ライフイベントは,配偶者の死,就職など社会生活上の大きなイベントのことを指す。結婚や昇進など個人にとって好ましいイベントもストレス要因になりうることがポイントである。デイリーハッスルズとは,日常生活上の小さなわずらわしさのことであり,課題や発表などがこれにあたる。片頭痛には,ライフイベントとデイリーハッスルズの両者ともに影響を及ぼすとされているが4),特にデイリーハッスルズに関しては,片頭痛発現とストレスへの曝露との経時的な関係性が検討事項とされてきている。約60%の患者はストレスがあるときに,約25%の患者はストレスから解放されたときに頭痛が起こることが報告されており5),ストレスから解放されたときの頭痛は片頭痛の特徴のひとつとなっている。
また,片頭痛の発作自体が心理的ストレスとしても機能することが多く,頭痛とストレスとの間には双方向性の関係性が存在する6)。慢性化した頭痛はそれ自体が心理的ストレスとなり,さらに頭痛が悪化するという悪循環が形成される。
片頭痛患者の多くは,心理的ストレスによって片頭痛が誘発されることを自覚している。しかし,ストレスは仕方がないものとして十分な対応ができていないことがほとんどである。心理的ストレスへの対応としては,過剰なストレスへの曝露を避けるとともに,積極的な発散が重要である。
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