抗原特異的IgE抗体陽性のみで食物アレルギーの診断はできないが,抗体価の測定は食物アレルギーによる症状誘発をある程度予測できる
抗体価による症状誘発の可能性は,患者の病歴,体調,運動の関与,摂取食物の量などにより大きく変化するので注意が必要である
アレルゲンコンポーネントに対する抗原特異的IgE抗体価は食物アレルギーの診断に有用であり,新しいコンポーネントの解析も進んでいる
皮膚テストは乳児期の食物アレルギーの原因抗原の診断に利用できる
ヒスタミン遊離試験は食物アレルギーの診断補助検査として有用で,誘発症状の重症度予測への利用も期待されている
食物アレルギーの治療・管理の原則は「正しい診断に基づいた必要最小限の除去」であり1),原因食物を正しく診断することは,患者の生活の質(quality of life:QOL)に関わるため重要である。原因食物の同定には,詳細な問診に加え,抗原特異的IgE抗体の測定などのin vitro検査,皮膚テスト(skin prick test:SPT)などのin vivo検査が利用できる。しかし,これらの検査で抗原特異的IgE抗体の存在が証明されていても,当該食物の摂取で症状が誘発されない例を少なからず認める。このため,食物アレルギーの確定診断は食物経口負荷試験(oral food challenge test:OFC)による症状誘発の有無により判定する1)。しかしOFCでは,稀に重篤な症状が誘発されるため,その適応は慎重に決める必要がある。本稿では,OFCの適応決定における検査の有用性と日常診療での利用について論じたい。
わが国では医療保険制度の関係からか,抗原特異的IgE抗体の測定は日常的に汎用されている。現在,4種類の抗原特異的IgE抗体測定法が存在し,イムノキャップ1397904493法やアラスタット3gAllergyR法では半定量的な測定が可能である。食物アレルギー診断においては抗原特異的IgE抗体価は食物アレルゲンによる症状誘発の可能性と関連することが報告されている2) ~ 4) 。これらはすべて,イムノキャップ法で測定された抗原特異的IgE抗体価を用いたものである。アラスタット3gAllergy法による抗原特異的IgE抗体価は,イムノキャップ法と強く相関することが報告されているため,今後,食物アレルギー診断への有用性が期待されている。
抗原特異的IgE抗体価と食物アレルゲン摂取による症状誘発の可能性を示したものをプロバビリティーカーブと呼んでいる。わが国からは,卵白,牛乳,小麦などのプロバビリティーカーブが報告され,図1 1)に示すように,いずれのアレルゲンにおいても抗原特異的IgE抗体価が高くなると症状誘発の可能性は高くなる2)4)5)。卵白,牛乳については年齢によりプロバビリティーカーブの形状は異なる。すなわち,牛乳の抗原特異的IgE抗体価が3UA/mLの場合には,症状誘発の可能性が1歳未満で約90%,1歳で約50%,2歳以上で約30%であり,同じ抗体価であっても症状誘発の可能性は異なる。
プロバビリティーカーブは有用なツールではあるが,あくまでも症状誘発が推定される確率を示したものである。したがって,同じ抗原特異的IgE抗体価であっても,対象とする母集団により異なる結果を示すことを理解する必要がある。たとえば,卵白の抗原特異的IgE抗体価が10UA/mLの場合,対象に即時歴のある患者を含んでいるKomataら2)の報告では症状誘発の可能性が約90%であったが,即時歴のない患者を対象としたHanedaら6)の報告では約30%であった。症状誘発には,患者側の因子(体調,感染症への罹患,運動など)や摂取する食品側の因子(調理法,摂取量など)も関与するので,症状誘発の可能性が低い場合でも,OFCを施行する際には注意が必要である。また,イムノキャップ法とそのほかの測定法では測定結果に乖離を認めるため,既存のプロバビリティーカーブを利用するときには,抗原特異的IgE抗体価の測定法を確認すべきである。
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