人工呼吸器管理の原則は低容量換気である。小さいドライビングプレッシャー(ΔP)が生存率を改善させる可能性がある
急性腎傷害(AKI)を伴わない敗血症に対する持続的腎代替療法(CRRT)が予後を改善する,という根拠は非常に乏しい
強化インスリン療法は行うべきではないというのが現在の主流だが,目標血糖値が本当に180mg/dLでよいのか,など不明な点は多い
重症敗血症患者では,侵襲後最初の1週間はカロリー制限した経管栄養は許容される。敗血症では,免疫調節栄養剤を推奨する根拠はない
敗血症のみならず,一般的に人工呼吸器管理では,過度の高容量換気や高圧換気を避けることが原則である。国際敗血症ガイドライン(Surviving Sepsis Campaign Guidelines:SSCG)2012 1)では,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)合併時の呼吸管理について記載されている。人工呼吸器の1回換気量は理想体重の6mL/kgとする低容量換気,プラトー圧は30cmH2O以下を目標とすること,高レベルの呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure:PEEP)を用いること,などを推奨している。しかし,PEEPの増加がプラトー圧の上昇につながる可能性があり,各要素の相対的な重要性については明らかになっていない。そこで,最新の知見として2015年にドライビングプレッシャー(ΔP)の研究が発表された2)。ΔPとは,プラトー圧からPEEPを引いた圧であり,換気量を得るために実質的に要した換気圧を指し,ΔPと換気量の関連は肺のコンプライアンスに依存する。ΔPの変化の程度が,単独的にPEEPや1回換気量に比べ生存率により強く影響を与えるのではないか,と仮定して行った研究である。その結果,ARDS患者3562名を多変量解析したところ,換気量やPEEPに比較してΔPは死亡リスクに最も強い関連を持つ因子であることが示された。すなわち,小さいΔPでの人工呼吸器管理が生存率を改善させる可能性があり,今後の研究が期待される。
ARDS患者に対する腹臥位療法の機序は明らかになっていないが,酸素化を改善することが示されている。しかし,体位変換時にチューブの事故抜管などの合併症が生じることがあり,SSCG2012では腹臥位療法に関して,PaO2/FIO2(P/F)比≦100mmHg患者の場合,経験がある施設では行ってもよい,と条件付きの推奨になっている。これまでの研究では予後の改善に否定的であったが,Guérinら3)の大規模ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)で,腹臥位療法で初めて予後が改善する可能性が示された。本研究では,FIO2>0.6でP/F比<150mmHgの重症ARDS患者を16時間以上の腹臥位療法施行群と非施行群に割り付けた。結果は,施行群の28日死亡率が有意に低かった。ただし,腹臥位療法は様々な合併症を生じることが考えられるため,スタッフ間で十分なシミュレーションを経てから実践することが望ましい。
高頻度振動換気(high-frequency oscillatory ventilation:HFOV)とは,解剖学的死腔よりも少ない1回換気量を用いて,振動数で呼吸回数を設定し生理的呼吸回数を著しく超えた換気回数により患者を換気する呼吸モードである。有効性を示すエビデンスはなく,SSCG2012でもHFOVの記載は一切ない。最近では,2013年にOSCAR study4) とOSCIL LATE study5) という2つの大規模RCTが発表されたが,どちらの試験でもHFOVの有用性を示せなかった。OSCAR studyでは30日死亡率で有意差を認めず,OSCILLATE studyでは,HFOV群の高い死亡率が強く示唆されたため試験は途中で中止された。そのため,現時点でARDS患者におけるルーチンでのHFOV施行は推奨されない。
残り4,191文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する