妊娠すると胎盤でreninが産生され,renin-angiotensin-aldosterone(R-A-A)系が活性化し,水とNaの再吸収が亢進して循環血液量が増加する。妊娠32~34週で循環血液量は最大となり,非妊時の30~40%増加する。一方,血圧は循環血液量とは逆に妊娠32~34週頃まで低下し,その後,軽度上昇する。すなわち,正常妊婦では循環血液量が増加するにもかかわらず血圧は低下する。その理由は循環血液量の増加に対して血管内皮細胞からPGI2やNOなどの血管弛緩因子が代償的に産生され,血管拡張が起こるためと考えられている。妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension:PIH)は,らせん動脈のremodeling不全のため,絨毛細胞で抗血管新生因子(soluble fms-like tyrosine kinase-1やsoluble endoglin)が産生され,それが血管内皮障害を起こし,血管弛緩因子の産生が低下して発症すると考えられている(図1)4)。
高血圧患者では血管内皮細胞が障害を受けている可能性があり,その場合は血管弛緩因子が十分産生されないため,加重型PIHを発症する可能性が高い(表1)5)。
高血圧合併妊娠の頻度は1~5%と報告されており6),近年,妊婦年齢の上昇により増加傾向にある7)。米国では1970年に35歳以上の妊婦が1%であったものが,2006年には8%に増加しているという8)。前述したように,わが国の高血圧合併妊娠の頻度は約3%と推定され,米国と同様に増加傾向にある。Bramhamら6)の報告によれば,高血圧合併妊娠では症例の25.9%が加重型PIHを発症し,28.1%が早産となり,20.5%が児のNICU(neonatal intensive care unit)入院が必要となり,41.4%が帝王切開で分娩し,4.0%に周産期死亡がみられたという。正常妊婦と比較すると,相対危険度は妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE)が7.7,帝王切開分娩が1.3,早産は2.7,低出生体重児は2.7,児のNICU入院は3.2,周産期死亡は4.2と,いずれの項目でも高かった。すなわち,高血圧合併妊娠では母児の予後は正常妊娠と比較して明らかに悪い。Broekhuijsenら9)も同様に,高血圧合併妊娠のほうが正常妊婦より有意に年齢が高く,拡張期血圧90mmHg以上と蛋白尿の発現頻度,子癇や常位胎盤早期剝離などの発症頻度が高いと報告している。