複数の保健所を掛け持ちする保健所長が増えるなど、公衆衛生医師のなり手不足が顕在化している。行政から地域医療の基盤を支える公衆衛生医師をどのように確保し、養成するのか。全国保健所長会会長の宇田英典氏に聞いた。
近年、保健所長の兼務率は全体の1割、数にして50カ所前後で高止まりしており、特に北海道、東北、北陸、九州では兼務が多くなっています。
保健所長会は、保健所の役割を①地域保健の充実強化、②健康危機管理、③衛生行政を支える人材の育成―の3本柱で捉えています。地域保健の充実強化とは、市町村や医師会等と連携し、医療連携の推進、医療計画の策定、健康増進・介護予防など、衛生行政の制度やネットワークを構築すること。これが平時からうまく機能していなければ、感染症や食中毒、自然災害などの危機事態に対処できません。
平時と危機発生時、双方の対策を支えるのは、やはり保健所長や公衆衛生医師でしょう。公衆衛生医師が確保できず、平時の活動が手薄になれば、危機への対処も心許なくなる可能性があります。
2004年に保健所長の要件が緩和されました。しかし、国立保健医療科学院の試験に合格し、自治体がどうしても医師を確保できない場合に1カ所2年間を限度として歯科医師なども所長になれる、という厳しい条件付きです。歯科医師で保健所長になった事例は5例前後。これが所長のなり手不足解消の切り札とは言えません。