(岐阜県 K)
頭痛の漢方治療についてですが,漢方では病名や症候に対して西洋医学と同じような考え方あるいは分類に基づき,それに適応する漢方薬を使用する場合と,もう1つは頭痛を主訴とする人間の心身を含めた全体像を漢方的な物差しで診断して方剤を決める立場があります。
前者の立場では片頭痛タイプに西洋医学でトリプタン系薬剤が使われていますが,漢方では呉茱萸湯がファーストチョイスです。これだけで効果がいまひとつのときは川芎茶調散を併用します。
筋緊張性タイプには西洋薬の非ステロイド系鎮痛薬および筋弛緩薬投与とほぼ同じ発想で葛根湯が一番目の候補となります。ここからが大事なところですが,漢方の場合,患者の虚実,簡単に言いますと,体力があり胃も丈夫な人にはこの葛根湯を,また体力のない特に胃の弱い人にはこれから麻黄を除いてある桂枝加葛根湯が適応となります。
これだけでうまくいかないこともあります。そのときは背景因子を漢方的な考え方に基づき過去の外傷歴があれば治打撲一方や桂枝茯苓丸を合方するとドラマチックに効いてきます。また,外界の気圧の変化等でひどくなる場合は五苓散を合方,あるいはこの方剤のみで満足する結果が得られます。
群発頭痛はエキスにある漢方方剤だけで対応するのは結構困難ですが,例えば前述の方剤をいくつか組み合わせると50%くらいは対応できます。それでもうまくいかないときは漢方独特の理論に基づいた処方の出番となります。
さて,習慣性の頭痛に昔より多くの人が苦しんできたことは,魏の曹操はじめいくつも報告がありますが,江戸時代の漢方書,例えば『古今方彙』などに頭痛門が設けられていることからも理解できます。それより前の時代の『衆方規矩』の同門には駆風触痛湯が紹介され,「諸般の頭痛を治す」,特にそれから蒿本を去り菊花を加えた清上蠲痛湯は医療用にはありませんが,エキスにあり,西洋薬を含め従来の方剤で効果の出ない難治性の各種のタイプの頭痛に対して大変よく効くことを数々経験しています。
また,漢方の場合は同じ頭痛でも痛む場所によって,方剤,あるいは生薬を使い分けることが特徴です。前述の『古今方彙』に「頭痛にて左に偏する者は風と血虚に属するなり」として「当帰補血湯」が,「右に偏する者は痰と気虚に属する」として「黄耆益気湯」が勧められています。煩雑になるので構成生薬は省略します。
さらに眉稜骨痛(現在の前頭痛または眼性頭痛)には「選奇湯」,雷頭風(耳鳴りの甚だしき頭痛)には「升麻湯」,頭頂項痛には「羗呉湯」などです。
最後に,生薬についてですが,『中医臨床のための中薬学』(神戸中医学研究会)に「蒿本は膀胱経に入り頭頂痛に,羗活は後頭痛に,白芷は陽明経に入り前額痛に,川芎は少陽経に入り側頭痛」と記載されており,頭痛といっても漢方は方剤だけでなく生薬によっても適応する場所が違うのが特徴です。
【参考】
▶ 日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会, 訳:国際頭痛分類 第3版beta版. 医学書院, 2014.
▶ 甲賀通元, 編, 吉冨兵衛, 訓註:和訓 古今方彙. 緑書房, 1984.
▶ 神戸中医学研究会, 編著:中医臨床のための中薬学. 医歯薬出版, 1992.
▶ 織部和宏:漢方と診療. 2015;6(3):246-7.
【回答者】
織部和宏 織部内科クリニック院長/ 大分大学医学部臨床教授