冬に猛威を振るうノロウイルス食中毒とは対照的に,細菌性食中毒の多くは夏場に発生するため,これからの季節,特に注意すべき感染症である
治療は原則,対症療法だが,各原因菌による食中毒の特徴を理解し,抗菌薬が必要となる状況を知っておくことが重要である
病原微生物による食中毒(感染性胃腸炎)の流行には季節的な特色がみられる。厚生労働省食中毒統計資料1)で平成26年(2014年)の月別の発生患者数を見ると,ウェルシュ菌だけは春から梅雨にかけて発生が目立ち,ピークが5月(919人)だったが,それ以外の細菌性食中毒はおおむね夏場にピークがあると考えてよい(図1)1)。一方,ノロウイルスによる食中毒患者は年間通じてみられるものの,1月の4709人をピークにその後徐々に減少し,5〜10月にかけてはほとんど発生がなく,11月に入るとまた急速に増えはじめ る1)。このようにわが国の食中毒は,冬場はノロウイルスを中心にウイルス性が目立ち,春から秋にかけては細菌性が多くなるのが特徴である。
本稿ではこれからの季節に増加する細菌性食中毒のうち,カンピロバクター,サルモネラ,(黄色)ブドウ球菌,ウェルシュ菌,腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC),腸炎ビブリオ,セレウス菌についてそれぞれの特徴と対応を述べる。
平成26(2014)年の食中毒事件発生件数が多い順に記載する。( )内は患者数を示す。
カンピロバクターはグラム陰性桿菌に分類されるが,らせん状で両極に鞭毛を1本ずつ有し,活発に運動するといった特徴がある。食中毒を起こすカンピロバクターは95~99%がC. jejuniで,ほかにC. coliなどが知られている。事件数は桁違いに多く,2位のサルモネラの約9倍だが,500個程度の菌でも感染が成立すると言われている割には事件1件当たりの発生患者数は6.2人と少ない。
1年中発生するが,比較的冬は少なく,春から増えはじめ,9月にピークがある(図1)。
鶏肉(主にC. jejuni),豚肉(主にC. coli),およびそれらの加工食品。
2~5日と,ほかの菌と比較して長いことが特徴である。
病初期は胃腸炎症状に乏しく,38℃以上の発熱を伴う感冒様症状で医療機関を受診することも多いため注意を要する。その後,1~3日くらい経過してから嘔吐,腹痛,下痢(血性44%)などの消化器症状が出現する。
感染して1~3週間後にギラン・バレー症候群を発症することがある。ギラン・バレー症候群は稀な神経疾患であるが,その30~40%に本菌の先行感染がみられ,呼吸筋麻痺のため人工呼吸管理を必要としたり,歩行困難などの後遺症が残ることがある。
臨床現場では,胃腸炎患者の便培養でらせん菌が検出された時点で本菌を想定する。
多くは対症療法のみで軽快するが,重症の場合や免疫力の低下している患者には抗菌薬を投与する。ペニシリン系,セフェム系は無効で,キノロン系薬に対しても耐性株が増加しているため,アジスロマイシンなどのマクロライド系薬が第一選択となる。
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