肺MAC症の薬物療法の目的は自覚症状の改善と,病状進行抑制による長期予後の改善である
副作用が起こっても安易に治療をあきらめず,減感作療法などの工夫により2剤以上の治療継続をめざす
外科治療の適応がある症例は専門医に相談し,手術の機会を失うことがないようにする
標準治療期間は菌陰性化後1年とされるが,少なくとも空洞を有する症例ではより長期の治療継続が望ましい
肺結核は化学療法による治癒が可能な疾患となったが,肺Mycobacterium avium complex(MAC)症はまだ治癒可能な疾患ではない。そこまでの殺菌力を持つ薬剤がないのが現状である。とはいえ,多くの肺MAC症患者は,薬物治療により自覚症状や画像所見の改善や菌陰性化などの一定の治療効果を期待できる。肺MAC症治療の目的は,自覚症状の改善と,病状進行の抑制により長期予後を改善させることにある。
ただし,肺MAC症に対する現行の標準治療は,多剤併用療法HAART導入以前のHIV感染症末期に高頻度に合併した播種性MAC症を対象として行われた多くの臨床試験の結果を,肺MAC症に応用したものである。肺MAC症に対する治療の有効性について,臨床エビデンスが確立しているとは言いがたい。
肺MAC症に対する標準治療はクラリスロマイシン(CAM)を中心とした多剤併用療法である。日本結核病学会・日本呼吸器学会合同の「肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─2012年改訂」1)の推奨する標準治療は,CAMにリファンピシン(RFP),エタンブトール(EB)を組み合わせた3剤治療を基本レジメンとして,必要に応じてストレプトマイシン(SM),カナマイシン(KM)などのアミノグリコシドを併用するものである(表1)。
一方,米国において2007年に発表されたATS/IDSA(米国胸部疾患学会/米国感染症学会)の公式声明2)では,重症例を除く結節・気管支拡張型,線維空洞型の初回治療例,そして重症例あるいは再治療例と3種類の病態・重症度にわけて推奨治療を示している(表2)。
CAMは唯一,単剤でも肺MAC症に有効な薬剤であるが,CAM単剤治療は数カ月以内にCAM耐性を誘導するため,行ってはならないとされている。CAM耐性菌は予後不良因子であることが示されており,CAM耐性化防止は肺MAC症診療において1つの重要な目標となる。
EB,RFPはCAMと組み合わせて使用することによって効果を発揮するcompanion drugとして有効である。CAM単剤あるいはCAM+フルオロキノロン(FQ)剤の治療に比べて,CAM+EB+RFPの3剤治療はCAM耐性化が起こりにくいことが示されている3)。
RFPの代わりにリファブチン(RBT)を使用することもできる。MACに対する抗菌力はRFPよりやや強力とされ,米国のガイドライン2)では重症進行例あるいは再治療例の場合の選択肢とされているが,多くの専門家はRBTの副作用から通常はRFPを推奨するとも述べられている。わが国の学会見解1)でも,薬物相互作用などでRFPが投与できないとき,あるいはRFPの効果が不十分なときに投与考慮とされる。おおむねRBT 300mgがRFP 600mgに相当すると考えられている。
米国ではCAMの代わりにアジスロマイシン(AZM)を用いることもできるが,どちらが優れているか,結論は出ていない。わが国では保険上AZMの長期投与ができない。CAM耐性菌は一般にAZMにも耐性である(交叉耐性を持つ)。
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