厚生労働省は、『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(GL)』を3月に公表した。2007年に初版が策定され、11年ぶりに大幅改訂された。今回の終末期ガイドラインをどう活かすべきか、町医者の立場で考えてみたい。
従来のGLは主に病院仕様であったが、今回は在宅や介護施設などでの活用も想定した内容に改変されている。①本人の意思が変化し得ることを踏まえ本人との話し合いを繰り返す、②本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性を踏まえ、「本人の意思を推定する者」を事前に定めておく、③病院以外の介護施設や在宅の現場も想定し、話し合った内容はその都度、文書にまとめておく─としている。「本人の意思を推定する者」については、自分が決められない時に備えて決めておくということで、1人ではなく複数でもよいとするなど、大認知症時代を想定したGLとなっている。多死社会をアドバンスケアプランニング(ACP)を主体にして乗り越えようという強い意思を感じる。終末期医療に携わる一町医者として、政府見解がとりあえず一歩前進したことは評価したい。
すでに新聞や雑誌の見出しには「終末期は話し合いを重視」などの活字が躍っている。これを受けて各医学会の終末期ガイドラインも適宜改訂を重ねていくことになるのであろう。しかし従来の各医学会のGLは医療者だけでなく市民への周知が不十分で、現場では使いにくいとの意見もあった。今回の改訂をより実践的なものにブラッシュアップして広く市民に啓発するためには、まだまだ多くの課題がある。
新聞の見出しには「本人意思の尊重」とあるが、いくら本文を読んでも「本人の意思」を記した文書、つまり「リビング・ウイル(LW)」や「アドバンス・ディレクティブ(AD)」の扱いには触れられていない。本人の意思が明確に示されている場合への言及を避けている。その理由は「人の気持ちは揺れ動く」からだという。しかしACPの結果、LWやADが否定されてもいいのだろうか。ちなみに婚姻届や離婚届は、あとで気が変わっても有効な文書である。