(千葉県 M)
高齢者に限らず,てんかん発作(強直性発作)に遭遇した場合,目撃者がまず行うことは,本人や周囲の「安全確保」です。発作を起こしている患者から外傷などにつながりうるような危険なものを遠ざけ,椅子などから転落しそうな場合は,可能であればゆっくりと安全な場所に横たえます。その際,発作に伴う唾液分泌亢進や,嘔吐からの誤嚥を防ぐため,横向きの体位(シムズ体位)を取らせます。
介護老人福祉施設など,病院以外の施設では医療機関への受診のタイミングが問題となるでしょう。体の一部のみが痙攣するものでは,上記のような安全に対する措置を取り,慎重に経過観察します。全身の痙攣発作がみられても,通常,多くの発作は1~数分程度で自然に収束します。発作後,10~20分程度で普段通りの意識状態に回復する場合は,一般的に経過観察でよいのですが,①持続する場合,すなわち長時間(5分以上)持続する痙攣発作の場合や,②断続する場合,すなわち意識状態が回復する前に繰り返し発作が起きるような場合には,医療機関を受診して頂きましょう1)。
発作に対する投薬治療については,若いときからてんかんで内服加療を受けているケースでは,問題がなければ原則的に過去に発作コントロールが良好だった時期の投薬を尊重します。経歴が長期で複雑になるため,ここでは高齢初発てんかんへの対応について述べます。
高齢初発てんかんの多く(約80%程度)は局在関連てんかん(部分てんかん)で2),全般発作の頻度は10%以下と低くなっています。適切な発作分類・てんかん分類の診断のもと,これらに合わせて適切な抗てんかん薬を選択します3)。
内科的合併症を持たない部分てんかんについては,カルバマゼピンが第一選択となりますが,多くの高齢者は合併症を有し,各種投薬を既に受けています。この場合,薬剤の相互作用が少ないレベチラセタム,ラモトリギン,ガバペンチンといった新規抗てんかん薬が第一選択候補となります4)。
ただ,介護老人福祉施設では医療コスト上の問題から新規抗てんかん薬の処方が困難な場合があります。その場合は,既存のバルプロ酸やカルバマゼピンを注意して使用します。用量調整の難しさや薬剤相互作用に加え,心伝導抑制の点からフェニトイン,鎮静・抑うつの点からフェノバルビタールはそれぞれ回避したほうがよいでしょう。
投薬の際の一般的な注意として,高齢者では肝臓代謝能・腎臓排泄能の低下や,血清アルブミンの低下による血中濃度の影響があり,導入は基本的に「低用量で緩徐に」行います。発作の抑制とともに覚醒度や自発性・意欲の低下をきたすと,ADLはかえって低下することがあります。成人維持量の1/2~1/3がひとまずの目標となります。
その上で各患者の臨床状況に合わせた処方設計を行うのがよいのですが,方針決定に悩む場合は,一度神経系やてんかんの専門医に相談されるとよいでしょう。薬剤には各々特徴がありますが,使用に際しての注意は以下の通りです。
・レベチラセタム:用量設定のしやすさや忍容性の高さから使用しやすく,250~500mg/日と少量でも十分効果が上がることがあります。眠気や気分的変動が強く出ることがあります。
・ラモトリギン:双極性障害にも適応があり,抑うつ傾向を有する患者にも使いやすい薬剤です。最終用量設定と最終定常状態に至るのに時間がかかることが問題になることもあります。皮疹などの副作用出現に注意を要し,漸増をさらにゆっくりと行うことで副作用の出現を抑制します。
・ガバペンチン:若年者と異なり,高齢者では600 mg/日程度あるいはそれ以下で効果が得られることがあります。また,副作用の出現が比較的少ない薬剤です。
以下の既存抗てんかん薬も,コストの面から考慮されます。
・カルバマゼピン:部分発作に対する発作抑制効果が強く,気分安定化作用にも有用ですが,薬剤性過敏症候群などの皮膚症状,血球減少,バソプレシン分泌過剰症による低ナトリウム血症が出現することがあります。また,フェニトインとともに心伝導抑制による不整脈にも注意が必要です。
このほか,バルプロ酸は合併症のない全般発作に対して推奨されますが,部分発作にも十分効果があります。気分安定化作用を狙って処方されることも多いのですが,体重増加やパーキンソニズムの出現には注意が必要です。
【文献】
1) 日本てんかん協会:発作に出会ったら.
[http://www.jea-net.jp/tenkan/hossa.html]
2) Hauser WA, et al:Epilepsia. 1993;34(3):453-8.
3) 音成秀一郎, 他:新薬と臨. 2016;65(6):840-5.
4) 日本神経学会, 監:てんかん治療ガイドライン2010. 医学書院, 2010.
【回答者】
三枝隆博 大津赤十字病院神経内科副部長
池田昭夫 京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座特定教授