(千葉県 M)
内頸動脈は粥状硬化の発生しやすい部位です。内頸動脈に粥状硬化が発生すると,どうなるのでしょうか。血管内面がデコボコになるので,そこでは血小板凝集が惹起されて,塞栓子を形成させる要因になります(embolic source)。また,粥状硬化が大量で,血管壁が大きく狭窄するようになると,その部分より末梢へ流れる血流が不足する原因になります(hemodynamic compromise)。
内頸動脈狭窄はこの2つの要因により,脳梗塞の原因になりうると考えられています。両要因ともに,初期治療としては抗血小板薬で対処できます。しかし,狭窄が高度な場合,内科的治療に抵抗性の場合は,外科的治療を選択することになります。
外科的治療の選択の目安は,症候性で50%以上の狭窄,無症候性で80%以上の狭窄です1)2)。症候性の場合は,発症段階から脳卒中医が関わることが多いと思いますから,一般内科の医師が手術適応の判断に苦慮するようなことは少ないと思いますが,無症候性の場合は内科医が初期対応をすることも少なくないと思います。
頸動脈狭窄のスクリーニングに最も使いやすいのは頸動脈エコーです。狭窄度を予測しやすいのはpeak systolic velocity(PSV)であり,230cm/秒が80%狭窄に相当するとされています。ただし,頸動脈エコーで最速部を探索するのは技術的習熟度が要求されるので,私は150~200cm/秒以上であればご相談下さい,と伝えています。
さて,症候性であれ無症候性であれ,外科的治療の適応があると考えられた場合,外科的治療には頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)と,頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)の2つの方法があります。
CEAは頸部の10cm程度の切開により内頸動脈外頸動脈分岐部を露出し,血行遮断を併用しながら粥状硬化巣を削ぎ落とす手術です。20年ほど前までは,CEAがこの疾患に対する唯一の外科的治療であり,現在もCEAが標準的治療とされています。
一方,CASはカテーテル治療の1つであり,大腿動脈に留置した9F程度のカテーテルから内頸動脈に頸動脈用ステントを誘導しバルーンによる血管拡張を併用して,狭窄した頸動脈を拡張するものです。誘導用カテーテルの留置,ガイドワイヤーによるリージョンクロス,前拡張,ステント留置,後拡張という順序で行い,大腿動脈穿刺からシース抜去までの通算でも1時間以内に終了する手技です。
CASには,ⓐ局所麻酔で施行可能,ⓑ内頸動脈の遮断時間が短い,ⓒ高位病変でも対応可能,などの利点があるのに,なぜCEAのほうが標準治療なのかというと,歴史的要因のほか,CASには,①遠位塞栓の発生の可能性,②再狭窄の発生,などの問題点があるためです。しかし,①については各種の遠位塞栓防止デバイスの開発,②については薬物治療の確立により,これらの欠点はほぼ問題のない程度まで減少させることができるようになりました2)。
そうしますと,低侵襲治療であるCASが好まれるようになります。脳神経外科学会の年次報告では,日本国内で,CEAが年間約4000例に対して,CASは約8000例施行されています。
【文献】
1) Yadav JS, et al:N Engl J Med. 2004;351(15): 1493-501.
2) 江面正幸, 他:脳卒中の外. 2015;43(3):159-64.
【回答者】
江面正幸 国立病院機構仙台医療センター脳血管診療部長/臨床研究部長