FASD(fetal alcohol spectrum disorder)予防の第1回国際会議がカナダのエドモントンで昨年9月23〜25日に開催された。世界各国での予防への取り組みが報告され、最後に、緊急の行動を呼びかける「FASD予防の国際憲章」が採択された1)。参加者は世界35カ国、700名に及んだ。
FASD予防は世界的な注目を浴びており、カナダなど先進地域をはじめとして、各地で取り組みが行われているが、これらと比べ日本はきわめて不十分である。そこで、この憲章の概要とともに関連するエビデンスについて紹介を行い、今後の健康政策と予防活動への対応について検討したい。
憲章ではFASDの障害と原因について現在のエビデンスを要約して示している。FASDは妊娠中のアルコール摂取によって引き起こされた身体的異常と広範囲な脳の損傷であり、個人と家族、社会に影響を及ぼす2)3)。その原因は明確であり、妊娠中の飲酒である2)3)。注意が必要なのは、FASDの発生しない、妊娠中の安全なアルコール量はない、つまり少量飲酒でもリスクがあるという点である4)。
FASDは多様な障害を含む包括的な用語であり、そこには大きく分けて4つの障害が含まれる3)5)。よく知られている重症のFAS(fetal alcohol syndrome、胎児性アルコール症候群)は、発達障害、顔面奇形、中枢神経損傷などを併発し、それらの一部からなるpFAS(partial FAS、部分的胎児性アルコール症候群)がある。最近注目されているのは、ARND(alcohol related neurodevelopmental disorder、アルコール関連神経発達障害)であり、頻度が高くFASDの裾野を構成している。その特徴は顔面奇形のない、中枢神経の構造的・機能的な障害である。また一部に、心臓などの臓器障害のみを示すARBD(alcohol related birth defects、アルコール関連先天異常)がある。
FASDの有病率は生まれた子どもの少なくとも100人に1人(1%)、一方、FASは1000人に1人(0.1%)と推定されている6)。日本のFAS有病率はその10分の1と推定されているが、調査自体が限定的であり、過少評価と考えられる7)。また、個別の集団で見ると、FASDの有病率は養子では30〜50%ときわめて高く、刑務所や矯正施設でも10〜20%と報告されている8)。前者は、アルコール乱用家庭ではFASDの割合が高く、しかも養子に出されることが多いからである。後者は、FASDを持つ人は認知的な欠陥があり、刑法に抵触するリスクが高い(また、しばしば被害者となる)。
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