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慢性硬膜下血腫と硬膜下水腫の関係は?【慢性硬膜下血腫に移行する前の硬膜下水腫に手術適応はなく,経過をみるのが一般的】

No.4908 (2018年05月19日発行) P.59

佐野正和 (新潟大学脳研究所脳神経外科学分野)

登録日: 2018-05-19

最終更新日: 2021-01-07

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79歳,男性。既往歴として1997年に直腸癌で腹会陰式直腸切除術,2010年に胆管癌で胆管切除,いずれも再発の徴候はなし。2017年8月上旬から歩行時のふらつき,易転倒性があり,来院。頭痛や嘔気はなく,食欲は普通。明らかな麻痺はなく,眼球運動に異常なく,瞳孔の大きさ正常。ただし,閉眼片足起立はできませんでした。頭部CT(図1)で両側の硬膜下水腫(subdural hygroma)でした。


経過観察としていましたが,当院受診の2カ月後に歩行障害が強くなり,他院を受診し,慢性硬膜下血腫で当日はドレナージ手術を施行したと聞きました。
(1)慢性硬膜下血腫と硬膜下水腫の関係,および硬膜下水腫の病態についてご教示下さい。
(2)硬膜下水腫が見つかった時点で症状があれば,手術することもありうるのでしょうか。

(秋田県 F)


【回答】

(1)硬膜下血腫と硬膜下水腫

硬膜下水腫は一般的に硬膜下腔に水様透明あるいは黄色調の液体が貯留した状態と定義されています。発生原因としては外傷によるもの,炎症によるものが主ですが,明らかな原因が認められないものもあります1)

硬膜下水腫の発生機序に関しては諸説あり,①くも膜の亀裂,②硬膜下小出血による浸透圧格差,③くも膜の炎症,④硬膜下血腫の血液成分の吸収等が原因と考えられています。外傷性の場合は一般的に外傷によりくも膜の亀裂が生じ,髄液が硬膜下腔に流出し,ball-valve mechanism等により髄液の逆流が阻止されて貯留が起こると考えられています1)

硬膜下腔が拡大すると架橋静脈にストレスがかかり,水腫内に血液が貯留することで架橋静脈へのストレスは強くなり血腫が形成されていきます。これが慢性硬膜下血腫です2)

(2)手術適応と術式

硬膜下水腫が慢性硬膜下血腫へ移行し,血腫が増大して症候性となった場合には,外科的手術が一般的です。局所麻酔下に1箇所に穿頭を行い,血腫内容を洗浄除去し血腫腔内にドレーンを残すという術式が推奨されており,術後成績は良好です。

慢性硬膜下血腫に移行する前段階の硬膜下水腫に対しての手術適応はないと認識されており,保存的に経過をみるのが一般的です。しかし稀ではありますが,症候性で,水腫によるmass effectが顕著な場合にはドレナージ術やシャント術が施行されることもあります3)4)

本症例において当初は硬膜下水腫であり,保存的に加療されたのは適切な判断であったと考えます。他院を受診したときに慢性硬膜下血腫に移行しており,手術適応と判断されたものと予想されます。慢性硬膜下血腫の経過としてよく遭遇する一般的なものであると思います。

【文献】

1) 小泉英仁:北関東医. 1988;38(3):123-41.

2) 太田富雄, 他, 編:脳神経外科学. 改訂12版. 金芳堂, 2016, p1918-29.

3) Tsuang FY, et al:J Neurosurg. 2012;116(3): 558-65.

4) Xie D, et al:Turk Neurosurg. 2016;26(5):725-31.

【回答者】

佐野正和 新潟大学脳研究所脳神経外科学分野

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