No.4703 (2014年06月14日発行) P.45
澤田康文 (東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座教授)
玉木啓文 (NPO法人医薬品ライフタイム マネジメントセンター主任研究員)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-03-30
サマリー
甲状腺ホルモン製剤のレボチロキシン(チラーヂン1397904493Sなど)は甲状腺機能低下症などに用いられるが,鉄剤やアルミニウム含有製剤,カルシウム製剤などとの併用により,レボチロキシンの吸収が阻害され,薬理効果が低下することが知られている。レボチロキシンによる治療効果の低下により,甲状腺機能低下症の症状などが現れることがあるため,これらの製剤との併用を避ける,もしくは,服用時間をずらすことで相互作用の影響を軽減することが必要である。
甲状腺ホルモン製剤のレボチロキシン(チラーヂンSなど)は甲状腺機能低下症や甲状腺腫などに用いられるが,鉄剤やアルミニウム含有製剤〔スクラルファート(アルサルミン1397904493 など)〕,カルシウム製剤(カルタン1397904493 など),炭酸ランタン製剤(ホスレノール1397904493 )などの金属含有製剤,胆汁酸を吸着するコレスチラミン(クエストラン1397904493 )やコレスチミド(コレバイン1397904493 ),リン結合性ポリマーのセベラマー(フォスブロック1397904493 ,レナジェル1397904493 )やビキサロマー(キックリン1397904493 )などとの併用により吸収が阻害され,薬理効果が低下することが知られている(表1)1)〜10)。
また,これらの医療用医薬品のほかに,カルシウムや鉄,アルミニウムなどは市販のOTC医薬品やサプリメントにも含まれているため,これらとレボチロキシンとの同時投与にも注意が必要である。
以下に,レボチロキシンとスクラルファートを併用した際に,効果の減弱がみられた症例を示す。
46歳の女性。自己免疫性甲状腺炎に基づく原発性甲状腺機能低下症により来院。低チロキシン血症と診断された。1日150μgのレボチロキシン投与により29年間みられた甲状腺機能低下症の症状は改善され,血清甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)濃度が一定になり,遊離チロキシン指数も基準値の範囲内となった。身体検査では,中等度の肥満が認められ,甲状腺の大きさは正常となり,甲状腺機能低下の徴候は認められなかった。
その後,消化不良の治療のためスクラルファート1回1g,6時間おきの投与を開始した。スクラルファート投与開始後,患者の血清TSH濃度は30.5mU/L(基準値:0.5〜4.5mU/L)と上昇し,全T4は57nmol/L(基準値:64〜154nmol/L)と低下した。T3レジン摂取率は21%(基準値:25〜35%),遊離T4指数は0.9(基準値:1.25〜4.2)であった。レボチロキシンの投与量を250μg/日まで漸増したが,徴候は消失せず,生化学的にも甲状腺の機能低下が認められた(図1)。
スクラルファートをラニチジンに変更したところ, 1カ月以内に全T4などが上昇し,軽度の甲状腺中毒症が生化学的に認められた。血清TSH濃度は0.18mU/Lと低下しており,全T4は205nmol/L,T3レジン摂取率は25%および遊離T4指数は4.0になった。レボチロキシンの投与量を1日175μgに減量したところ,血清TSHは基準値の範囲内となった。1年後,体重は16kg減少し,甲状腺機能の正常化が臨床的および生化学的に認められた。
残り1,921文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する