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1製剤1規格しかない薬剤の処方箋の記載方法は?【いつ誰がみても規格まで正しくわかるように処方箋に記載することが医療安全上求められる】

No.4910 (2018年06月02日発行) P.58

岩瀬利康 (獨協医科大学日光医療センター薬剤部部長)

登録日: 2018-06-01

最終更新日: 2018-05-29

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1製剤につき1規格しかない薬(たとえば5mg/錠)を処方しているのに,わざわざ「何mgですか?」と聞いてくる調剤薬局があります。意味がないように思うのですが,医療安全上,または何らかの理由・ルールがあって行われていることなのでしょうか。

(東京都 S)


【回答】

この問題を考えるとき,「医薬品名を含めた処方箋の記載方法は,どのようにあるべきか」ということを,医療安全の視座から考えてみる必要があると思います。

医療安全を推進する上で,医師の処方意図や処方した医薬品名などが,調剤をする薬剤師,医療事務に携わる事務員,医師の診療の補助に携わる看護師,そして最終的に薬を用いる患者にまで,齟齬なく,正しく伝わる仕組みを構築することは基本的な重要事項です。

診療において,医師が必要に応じて患者に処方箋を交付することは,医師の処方を患者に見せるためでもあり,患者への処方の開示と言えます。患者は,開示された自らの処方に基づいて,薬局で調剤を受けるか否かを判断し,受けるとすればどの薬局にするか,最終的に調剤された薬を飲むか飲まないか,といった生命に関わる重要な選択の権利を有しており,これらが正しく判断されるためには,患者にも正しく読み取れ,理解ができる処方の書き方でなければなりません。

処方箋に書かれる医療用医薬品の名称については,2000年9月19日に厚生省医薬安全局長から出された「医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取扱いについて」(医薬発第935号)1)の「3.医療用医薬品の販売名の取扱い」で,「医薬品の販売名については,販売名の一部を省略して記載した場合に,省略された販売名と同一の販売名の医薬品があること等が誤投与を招く原因となるおそれがあるため,医薬品の販売名のつけ方については別添5のとおり取り扱うこととし,今後承認申請を行うものについてはこれに従い命名すること(以下省略)」としました。別添5の「医療用医薬品の販売名の取扱い」の「3.一般原則(2)」で,販売名は「原則として,剤型及び有効成分の含量(又は濃度等)に関する情報を付すこと。例)○○○(ブランド名)+剤型+含量(又は濃度)」とし,「6.含量(1)」では,「錠剤,カプセル剤等にあっては,当該製品中の有効成分の含量を記載すること」としています。
また,2010年1月に厚生労働省から出された「内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会報告書」2)の中で,「3.内服薬処方せん記載の在るべき姿」の基準として,「1)『薬名』については,薬価基準に記載されている製剤名を記載することを基本とする」としています。

「薬価基準に記載されている製剤名」は,先の医薬発第935号に従って命名された「ブランド名」+「剤型」+「含量(または濃度)」の構成からなる医薬品名となっています。また,この報告書の「4.内服薬処方せんの記載方法の標準化に至る短期的方策」の10)では,「分量」,「用法・用量」の医師の処方意図との齟齬を懸念し,薬剤師に調剤時の疑義照会の徹底を求め,内服薬処方せんの記載方法の標準化に向けた取り組みについて関係者に協力を求めています。

薬の最終ユーザーである患者自らが,市販されている医療用医薬品の規格の種類を確認することは容易ではなく,たとえ1製剤につき1規格しかない薬であっても,誰がみても,そして処方から時間が経過したあとでも,規格までもが正しくわかるように処方箋に記載することが,医療安全上,強く求められています。

ブランド名に剤型や含量を付した医療用医薬品の名称の構成は,手書き処方箋ではなく,医薬品マスターの中から必要な薬剤を選択して処方する電子システムの利用を見据えたものと考えられ,手書き処方箋を交付する場合には,手数がかかります。しかし,処方箋の交付は患者への処方情報の開示であること,医療者への指示書にもなることを理解し,少しでも多くの処方情報を提供し,正しい医療記録を残すことで,医療者や患者による薬の確認範囲が広がり,ヒューマンエラーの発見や防止につながります。

また,薬剤師の疑義照会は,薬剤師法第23条の2および第24条に基づいて行われるものですが,漠然と「何mgですか?」と聞くのではなく,たとえば「市販品には5mg錠しかありませんが,5mg錠でよいでしょうか?」というように,判断に必要な情報を提供し,相手が手間取らずに回答できるような質問形式を心がけ,少しでも医師の時間的・心情的な負担感を軽減する,疑義照会のスキルを身につけることも大切です。それがなされなければ,ヒューマンエラーの防止と患者の安全確保のために行われる重要な疑義照会も,単に煩わしく思われ,逆効果となってしまうことがあります。

【文献】

1) 厚生省医薬安全局長:医薬発第935号 医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取扱いについて. 2000年9月19日.
[https://www.pmda.go.jp/files/000144004.pdf]

2) 厚生労働省医政局長, 他:医政発0129第3号, 薬食発0129第5号 内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会報告書の公表について(周知依頼). 2010年1月29日.
[https://www.pmda.go.jp/files/ 000145210.pdf]

【回答者】

岩瀬利康 獨協医科大学日光医療センター薬剤部部長

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