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嗅覚障害[私の治療]

No.5073 (2021年07月17日発行) P.41

三輪高喜 (金沢医科大学耳鼻咽喉科学教授)

登録日: 2021-07-19

最終更新日: 2021-07-14

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  • 嗅覚障害は,嗅覚脱失,嗅覚低下などの量的障害と,異嗅症,嗅覚過敏,嗅盲などの質的障害とにわけられる。また,病態からは,鼻腔内の異常による気導性嗅覚障害,嗅神経の障害による嗅神経性嗅覚障害,頭蓋内の嗅球から上位の嗅覚経路の障害による中枢性嗅覚障害に分類されるが,3つの病態が混在する場合もある。

    ▶診断のポイント

    慢性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎などの鼻副鼻腔疾患では,鼻内視鏡検査とCTが有用である。感冒後嗅覚障害では,感冒後に嗅覚障害に気づき,感冒が改善した後も長期間嗅覚障害が持続するという病歴が唯一の診断根拠であり,鼻内視鏡検査でもCTでも異常所見は得られない。外傷性嗅覚障害も外傷の既往が唯一の診断根拠であり,それを裏づけるものとして頭部MRIで異常所見を見出す。アルツハイマー病などの神経変性疾患の初期あるいは随伴症状として嗅覚障害が出現するため,病歴聴取とともにMMSEなどの認知機能検査を行う。また,神経変性疾患に伴う嗅覚障害では,基準嗅力検査(T&Tオルファクトメトリー)での認知閾値と検知閾値の乖離あるいは嗅覚同定能の低下を示す。何ら誘引なく急性に発症し鼻副鼻腔に異常を認めない場合は,新型コロナウイルス感染症を疑う。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    鼻副鼻腔疾患による嗅覚障害は,好酸球性副鼻腔炎と感染性の慢性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎とで治療方法が異なる。

    好酸球性副鼻腔炎では,副腎皮質ステロイドを内服,点鼻,噴霧と状態に応じて使いわける。2~3週間の内服から開始し,改善が得られる場合は点鼻療法とし,改善が持続する場合は噴霧療法に切り替える。内服療法でも改善しない例,あるいは再発までの期間が短い例では,鼻副鼻腔内視鏡手術も行うが,術後もステロイドの使用は避けられないことが多い。また,手術後の自宅での鼻洗浄も重要である。

    感染主体の慢性副鼻腔炎では,マクロライド系抗菌薬の少量長期投与を行うが,本疾患でも鼻茸を伴う例では鼻副鼻腔内視鏡手術を行う。

    アレルギー性鼻炎による嗅覚障害では,薬物治療として抗ヒスタミン薬,ロイコトリエン拮抗薬の内服,副腎皮質ステロイド噴霧薬を用い,重症例では鼻内視鏡手術を行う。舌下免疫療法も有効である。

    いずれの疾患においても手術に際しては,嗅裂の処理を意識して行う。

    感冒後嗅覚障害には漢方薬の当帰芍薬散を投与する。治療効果が現れるまで数カ月かかるため,気長な治療が必要であることを説明する。欧州では嗅覚刺激療法の有用性が報告されている。わが国において確立された方法はないが,何でもよいので,1日2回(朝・夕),意識してにおいを嗅ぐよう患者に指導している。

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