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ステージIVの患者さんのパフォーマンスステータス向上と管理栄養士の関わり(2019年1月31日)

登録日:
2019-01-31
最終更新日:
2019-02-01

私たち在宅診療に関わる診療所では、手術による切除ができないステージIVの患者さんの診療に多く携わります。

命の危機にかかわる状況での患者さんからの問いには重みがあります。初めてお会いした時に、ご自宅のベッドに横たわっている患者さんに「僕はどうしたらいいんですか?」と、ただ一言発せられただけでも、言外には「手術は手遅れで、今は体力がなく、抗がん剤の効果がないといわれている。死ぬのを待つだけなのでしょうか。それは不安です。お願いですから希望を持ちたいです」とたくさんのメッセージを感じます。

漠然とした問いであるからこそ、状態の正確な把握が必要です。そこで患者さんの日常生活の制限の程度を示す指標として“パフォーマンスステータス(Performance Status: PS)”で状態を説明します。化学療法を実施する診療科では、ステージIVの患者さんの化学療法の適応はPS0および1、行わない場合はPS3および4、適応を慎重に検討する場合は2となります。

PS0:まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。

PS1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業

PS2:歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。

PS3:限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。

PS4:まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。

出典:https://ecog-acrin.org/resources/ecog-performance-status


緩和ケアと栄養管理でPSを回復させ、化学療法のチャンス広げる

当院では緩和ケアを実施してPSレベルを上げます。さらに経験を積んだ訪問管理栄養士(写真:当院の常勤管理栄養士2)が症状に合わせて、体力を高めるための適切な栄養管理でPSの回復を目指します。PSが良くなれば化学療法を受けるチャンスが広がります。

当院の常勤管理栄養士(前列)と筆者

 

PS0から2の化学療法継続の患者さんには、治療効果を高め免疫を維持するための高たんぱく、高カロリー食を提案します。PS34の患者さんには、食欲低下に伴い栄養状態が悪化しますので、食形態、食事のタイミングの提案と細かなサポートをします。そしてPSステージを改善させ、体力の回復を促す栄養サポートをします。栄養学に基づきながらも、実際に美味しいものを患者さんに食べてもらうことがゴールです。手前味噌ですが、当院の管理栄養士はそれができます。

でも、お別れが見えてくる時があります。筋肉量が減り握手ができない時です。ここからはPSを改善する栄養サポートではなく、安らかな状態とご本人やご家族と思い出となりうる食事の提供に切り替えます。僕の母親の臨死の時に姉や妹が母の好みの果物を口に運んでいました。その時も口腔乾燥を防いだり、飲み込みやすい状態にしたりなど様々な工夫がありました。

僕は全ての医療において食事と栄養が治療に優先すると思います。

*過去の記事は➡コチラでご覧いただけます。

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