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1 体液の生理のキホンを知ろう! 

登録日:
2018-06-14
最終更新日:
2018-06-18

本章では体液の生理のキホンを勉強します。なぜなら,輸液の最も大切な目的は「体液の恒常性を維持すること」だからです。体液の恒常性が維持できないと,ヒトは正常な細胞活動,ひいては代謝活動ができません。この体液恒常性維持機構は大変精密な制御を受けていて,その機構の中心となるのが腎臓です。

1 腎臓の構造と機能(表1

腎臓は1つ120g程度の小さな臓器です。腎臓の主な役割は尿をつくることで,ヒトが日常生活で摂取あるいは代謝し,必要なくなったものを体外に排泄し,体液の量と質を維持する,つまり,体液の恒常性を維持することにあります。腎臓では血液を糸球体で濾過して原尿をつくった後,さらに尿細管で必要なものは再吸収,不要なものは分泌して,最終尿をつくっています。この糸球体と尿細管のセットがネフロンです。ネフロンは1つの腎臓に約100万個,計約200万個もあるのです。
腎臓には1分間に約1,000mLという大量の血液が流れており,これは心拍出量の約20%にも相当します。これだけ多くの血流を受ける臓器はほかにありません。血液のうち,液体成分である血漿は血液の半量なので,腎血漿流量は約500mL/分ですが,そのうち約20%(100mL/分)が糸球体で濾過され,これが糸球体濾過量(glomerular filtration rate;GFR)となります。しかし,糸球体で濾過された原尿の約99%が再吸収を受け,実際に尿として排泄されるのはわずか約1mL/分(1,440mL/日)です。
つまり,腎臓は1日約150Lもの大量の血液を濾過して原尿を生成し,その約99%も再吸収しているのです。これは体液全体が1日に4回程度も濾過されて,そのほとんどが再び体に取り込まれるということになります。
なぜ,こんな一見,無駄のようなことが行われるのでしょうか?ヒトが摂取する水や電解質の量は常に一定でなく,多い場合も少ない場合もあります。皆さんも,暴飲暴食をした経験のある人は少なくないでしょう。でも,それでも何ともなかったはずです。胃もたれや二日酔いにはなったかもしれませんが,体液電解質にはほとんど異常はなかったと思われます。これって,実はすごいことだと思いませんか?
体液は恒常性を保つために一定である必要があるので,このような膨大な糸球体濾過量がセーフガードとなって,必要なら再吸収し,不要なら排泄する余裕をつくっているのです。つまり,このシステムによって,ヒトはどんなに多く水や電解質を摂取しても,また,どんなに少なく摂取しても,体内の水電解質バランスを一定に維持することが可能になっているのです。
このように水電解質には1日の摂取許容量(体液恒常性を維持したまま摂取可能な量:daily allowance)があります。水は1.5〜40L,Naは10〜1,000mEqなど,かなり摂取量の許容範囲は大きいのです(表2)。腎不全になりGFRが低下すると,この許容範囲が狭くなる(つまり体液電解質異常が起きやすい)というのは感覚的にわかってもらえるでしょうか。
しかし,糸球体濾過量が多いというだけでは,このような種々の体液電解質を一定の範囲に調整するメカニズムは説明できません。多様な質と量の水電解質からなる食事や飲水行動があっても,体液恒常性を維持できるメカニズムはどうなっているのでしょうか?

2 体液恒常性維持のメカニズム

ヒトは毎日,摂食・飲水行動を行っており,このような摂食・飲水ができない人には輸液が行われています。食べたり,飲んだりしたものはまず腸管の毛細血管やリンパ管に取り込まれ,輸液は直接,末梢や中心静脈に入ります。このように,経口にしても経静脈にしても摂取した水電解質は,まずは細胞外液(その中でも血管内の血漿分画)に入ることになるわけです。そして,細胞外液に接する臓器・器官でその情報(水電解質の質・量の変化)が感知器(センサー)にインプットされます。インプットされた情報は効果器(エフェクター)の形で伝達されます。このエフェクターの作用点となるのが,腎臓です。そして,腎臓で水電解質の排泄(アウトプット)のバランスを決めているのです。
図1に示すように,たとえば水は視床下部(センサー)で浸透圧(張度)の変化(シグナル)が感知され,抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)や口渇感(エフェクター)を介して,水排泄と飲水量が調節されます。Naは体液量上昇というシグナルを頸動脈洞や心房の圧受容体,傍糸球体装置(juxtaglomerular apparatus;JGA)がセンサーとなって感知し,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(renin-angiotensin-aldosterone;RAA)や利尿ペプチド系,交感神経系がエフェクターとなり尿中Na排泄量のバランスを図っています。Kは血清K濃度や,おそらく細胞内外のK濃度勾配がシグナルとなり,副腎皮質(センサー)により感知され,エフェクターとしてのアルドステロンが分泌されることで,それぞれKの尿排泄バランスを決めているといった具合です。


このように体液電解質は,このセンサー・エフェクターのシステムによってバランスを維持していますが,ほとんどの場合エフェクターの標的臓器となるのが腎臓です。
腎臓は,大量の糸球体濾過量・再吸収量を維持するという類稀なる性質を持ち,また,水や種々の電解質のインプットに対するエフェクターの作用臓器となっていることで,体液恒常性維持の中心的役割を果たしているわけです。
この腎臓の働きが正常な限り,皆さんがどんないい加減な輸液をしても,大抵の場合,体液の恒常性が乱れることはありません。これが逆に医者が輸液をきちんと学ぶインセンティブを失っている原因なのかもしれませんね。
でも,病院にいる患者さんは,腎機能が悪かったり,センサーやエフェクターの作用機構に問題があったりして,体液恒常性維持機構が正常でない場合も多いのです。そんな時にいい加減な輸液処方をすると,溢水や低ナトリウム血症など,合併症につながるということがおわかり頂けたでしょうか。
それでは,実際のヒトの体液の中身について,もう少し勉強しましょう。

3 体液の組成と分布

私たちの体の約60%は水分(体液)です。たとえば,体重60kgの人なら,約36Lが体液ということになります。しかし,水は主に筋肉に含まれ,脂肪にはないので,年齢・肥満度により体液量の割合が変化します。たとえば,女性は男性と比べ体重に占める脂肪の割合が多いので,水分量は男性に比べ少ないわけです(表3)。また,子どもの水分量は多く,老人は少ない。子どもはまさに「みずみずしい」のですね。このように水が多いのは,ヒトに限ったことではありません。リンゴは85%,魚は75%,クラゲなどは95%が水だそうです。それだけ水は生物にとって大事だということですね。


水は半透膜である細胞膜を,溶質が形成する浸透圧勾配に従い通過・移動し,膜の両側の浸透圧(溶質量÷体液量)を等しく保っています。細胞内の溶質は細胞外の溶質の2倍存在するので,水の量も細胞内液(intracellular fluid;ICF)は細胞外液(extracellular fluid;ECF)の2倍存在します。つまり,体液の約2/3は細胞内液で,残り約1/3が細胞外液です。細胞外液のうち,約1/4〜1/3が血管内(血漿)に存在し,残りは間質に組織間液(interstitial fluid;ISF)として存在します。
体重60kgの人を例にとりましょう。体重の6割に当たる総体液量36Lのうち,細胞内液量はその2/3である24L,細胞外液量は1/3の12Lです。さらに,細胞外液の約1/4〜1/3が血管内ですから,血漿量は3〜4Lです(図2)。


繰り返しになりますが,水は膜の両側で浸透圧(溶質モル濃度の総和)が等しくなるように速やかに移動するため,常に細胞内外での溶質モル濃度の総和は等しく保たれています。細胞内の主な溶質はKで,細胞外ではNaです。この細胞内外の電解質濃度の違いは,細胞膜にある Na/K ATPaseの働きにより維持されています。実際の細胞外液(血漿と間質液)と内液の電解質構成を図3に示します。細胞内外ともに,陽イオンと陰イオンの濃度(mEq/L)は電荷を中性にするため等しいのですが,mEq/Lで表した細胞内液と細胞外液の電荷濃度(電荷の数)にはかなりの差があります。これは,2価以上に荷電した物質(Ca,Mg,蛋白など)が存在するためで,細胞外液と内液での浸透圧物質の数をそれぞれのコンパートメントの水分量で割った総モル濃度(mM)は等しくなります。


0.9%食塩水はNa濃度が154mEq/Lで,細胞外液の電解質濃度と同じなので生理食塩水と呼ばれます。実際の細胞外液のNa濃度は142mEq/L程度ですが,Na以外の陽イオンも浸透圧に貢献しますので,“生理的”な液体であるためにはNa濃度を少し高める必要があるのです(表4)。

4 細胞外液量・細胞内液量とナトリウムの関係

上記のように細胞外液は主に0.9%食塩水が成分であって,主要な陽イオンがNaであるのに対し,細胞内液の主要な陽イオンはKです。NaもKも非常に小さい分子ですから,細胞膜など自由に通過できそうですが,実は,まったくできません。細胞膜には,細胞内のNaをかき出し,細胞外のKを取り込むNa/K ATPaseというポンプが存在して,常に細胞内外のNaとKの濃度勾配を維持しているのです(図4)。


この「細胞外液の陽イオンのほとんどがNaであって,かつ,細胞膜がNaを自由に通過させない」という事実が非常に重要です。言い換えると,Naを摂取すると,そのほぼすべてが細胞外液にとどまるということです。Naのように細胞膜を自由に通過できない浸透圧物質を有効浸透圧物質(effective osmoles)といい,有効浸透圧物質によって形成される浸透圧を有効浸透圧(effective osmolality)あるいは張度(tonicity)と呼びます。この張度の概念は次章でもっと詳しく説明します。
Naなどの有効浸透圧物質を摂取すると,細胞外液の張度がまず増加し,これにより細胞内液から細胞外液への水の移動が起こり,細胞内液が減ります。ここで,たとえば脳細胞の細胞内液が減少するとADH分泌の増加や口渇感の上昇が起こるので,それぞれ尿量の低下・水摂取の増加につながります。
摂取した水の約2/3は細胞内液に,約1/3は細胞外液に移動するので,細胞内液の不足は補われ,細胞外液はさらに増加することとなります。つまり,Na(NaCl:食塩)の負荷は細胞外液量の増加をもたらすのです。細胞外液の主要な溶質はNaであり,細胞内液の溶質の量は固定されている(細胞内液量は細胞自体の大きさによりある程度規定されるため,それに溶ける溶質量も規定される)ため,Naの負荷は細胞外液の溶質量の増加に直結します。よって,体内の総Na量は細胞外液量を反映することとなるのです。
体内総Na量が増えれば浮腫性疾患となり,浮腫(間質液量増加)や高血圧(循環血漿量増加)として表れるし,総Na量が減少すれば,脱水症となり,皮膚乾燥・ツルゴール低下(間質液量低下),頻脈・低血圧(循環血漿量低下)として表現されることになります。
一方,細胞内液の溶質量が一定なら,生理的および多くの病的状況において短期的には張度(≒血清Na濃度)が細胞内液量調節の唯一の因子となります。つまり,細胞外液の張度が低くなれば細胞外液中の水(自由水)は一部細胞内液へ移動し,細胞内液量は増加します。逆に,細胞外液の張度が高くなれば細胞内液中の水が外液に移行するため,細胞内液量は低下します。よって,高ナトリウム血症では細胞内液量は低下していることが多く,低ナトリウム血症では細胞内液量は過剰なことが多いと予測されます(⇔ここがポイント!を参照)。

ここがポイント!
もちろん,これはあくまで一般論です。たとえば,総体液量の絶対値が非常に低い場合は,低ナトリウム血症でも細胞内液量は減少することもありますし,総体液量が過剰の場合,高ナトリウム血症でも細胞内液量が増加していることはありえます。

●Na量の異常は細胞外液量の異常である。
 Na量の増加→細胞外液量増加(浮腫性疾患)
 Na量の減少→細胞外液量低下(脱水症)
●Na濃度の異常は細胞内液量の異常である。
 高ナトリウム血症→細胞内液量低下(高張性脱水)
 低ナトリウム血症→細胞内液量増加(細胞浮腫)

ミリ当量(milliequivalent:mEq,メック)って何?
電解質の化学的活性(電荷)の単位です。電解質の生理学的力(浸透圧)はその電荷によって生じるので,浸透圧の話を考える場合には重さよりも,ミリ当量で計ることになります。電荷が1価の分子1モルが,1当量に相当します。以下にグラムからミリ当量への換算の例を挙げますが,塩分(NaCl)1gがNa+17mEqに相当することは覚えておきましょう。

5 まとめ

本章では体液の基本について勉強しました。ヒトの体重の約6割が水でできていて,2:1の割合で細胞内と細胞外に分布していること,また,細胞外液は0.9%食塩水,細胞内液はKを主体とする溶液でできており,この分離に細胞膜にあるNa/K ATPaseが重要な役割を果たしていることを知りました。
このことから,摂取あるいは投与されたNaは細胞外液にとどまること,つまりNaの体内貯留は細胞外液の増加につながり,Naの喪失が細胞外液の低下をもたらすことを理解しました。細胞内液はNaの量でなく,その細胞外液中の濃度(張度)に左右されるのですね。


次章では,種々の輸液製剤の体内分布から,その意義を知ることを勉強しましょう。

体液と進化
なぜ細胞内液はK主体で,細胞外液は0.9%食塩水のような組成をしているのでしょうか? 比較生物学の研究からは,海と生物との関係にヒントがありそうです。太古の海は現在のようにNa濃度は高くなく,せいぜい5〜10mEq/L程度だったようです。その時代に生まれた単細胞生物は,その体内(細胞内)にこの海水を取り入れました。細胞にKが多いのは,細胞活動にKが重要だからだと思われます(細胞膜電位は細胞内外のK濃度の差によって規定されますよね)。 海水はその後,大地の電解質が溶け出して,徐々にNa濃度が濃くなっていきます。生物も進化し,海で暮らしていた生物が陸上に上がるようになりますが,この頃の海水は大体0.9%食塩水だったと思われます。陸棲生物の細胞外液は,ほとんどが0.9%食塩水に近い組成をしていますが,これは海に住んでいた時の周囲環境を体に取り込んだのだと考えることもできます。 個体発生は系統発生を繰り返すといいますが,人間も胎生期は母親の羊水に囲まれて過ごします。羊水もやや薄いですが,0.9%食塩水に近い組成です。赤ん坊の成長は海から陸に上がった生物の進化を再現しているのです。

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