編著: | 髙田真二(帝京大学医学部医学教育センター 麻酔科学講座 准教授) |
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編集協力: | 安心院康彦(帝京大学医学部救急医学講座 教授) |
判型: | B5判 |
頁数: | 384頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2021年10月13日 |
ISBN: | 978-4-7849-6223-5 |
版数: | 改題改訂第2版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると,本書の全ページを閲覧できます) |
● 好評書『麻酔科M&M症例ファイル』の改題改訂第2版です。
● 本書は,失敗事例の原因分析を通して将来の糧を得る“他山の石”であり,”宝の山”でもあります。これは自分の症例!?と錯覚するくらい,起こりがちなエラー(インシデント事例)を集めました。
● 今版では,最近の患者安全学の潮流をふまえ,失敗を振り返り教訓を学ぶSafety-Ⅰに加え, 日常の成功に着目して現場の調整力を強化するSafety-Ⅱ(レジリエントヘルスケア)のアプローチを組み合わせています。
● 解説部分をきめ細かく全面的にアップデート。初版よりもさらに充実させています。
● 取り上げた症例に現れるエラーの多くは,どの診療科でも起こりうるものです。麻酔科以外の医師,特に臨床研修医や専攻医などの若手医師,指導医にもおすすめです。
● 「いかに患者の安全を守るか」という重大なテーマながら,楽しく読めることを目指しました。
診療科: | 麻酔・ペインクリニック | 麻酔・ペインクリニック |
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Ⅰ 総 論
1.世界標準の患者安全の考え方とM&Mカンファレンスの意義
2.Safety-Ⅱとレジリエントヘルスケア
Ⅱ 模擬カンファレンス
1.小児の全身麻酔導入時の重度低酸素血症
2.ケースマップによる医療有害事象分析
Ⅲ 他山の石─模擬事例から学ぶ
1.手術室編
①術前準備
File 01 Kさんのご家族の方ですか?
File 02 人工呼吸器が故障です!
File 03 カラセボはプラセボにしかず
File 04 そんなの聞いてない!
②入室〜導入
File 05 漏れたらいかんぜよ
File 06 いびきがひどいって主人によく言われるの
File 07 Just a Routine Anesthesia
File 08 こみあげてくる恐怖
File 09 Haste Makes Waste
File 10 どこから漏れるんだ?
File 11 見ていたつもり
③術中管理
File 12 何を入れちまったんだ!?
File 13 脊麻が効かない
File 14 気安くレミと呼ばないで!
File 15 ヘパリン入りました!
File 16 厳しく追及他人の失敗,笑ってごまかせ自分の失敗!?
File 17 お願い! 赤ちゃんを助けて!!
File 18 浜の真砂は尽きるとも世に誤薬の種は尽きまじ
File 19 あの赤い数字は何だ?
File 20 入れても入れても漏れちゃうの
File 21 軽症もいじくりまわせば…
File 22 ラリマであれまぁ
File 23 亀の甲より年の功?
④全身麻酔からの覚醒
File 24 去る者は追わず─抜けたものは…?
File 25 いつものあれ
File 26 息してる…よね?
File 27 ならぬことはならぬ
File 28 びっくりさせちゃったな…
File 29 それ, 早く言ってよ!
File 30 九仞の功を一簣に虧く
File 31 全身麻酔なんて絶対イヤッ!
File 32 The sooner, the better?
⑤術後回復室〜病棟帰室後
File 33 出かけるときは忘れずに
File 34 明石の蛸は美味いけれど…
File 35 Invisible Glottis
File 36 郵便ポストが赤いのも,みんな麻酔のせい!?
File 37 思考までブロックしてはならぬ
File 38 Sorry Works
2.救急外来編
多様な業務が同時進行する救急外来でアクシデントを回避するには?
本書の初版『麻酔科M&M症例ファイル』の上梓から7年以上が経過しました。この間,医学も医療も急速な発展を続けています。画期的な新薬や低侵襲を謳う先進医療が次々に臨床現場に導入されています。しかしこれら最先端の医療の裏側で,患者安全が様々な危険に曝されていることを忘れてはなりません。ある特定機能病院で高難度先進医療を受けた患者の死亡が相次いだ事件は,患者安全の面で大きな進歩を遂げたと思われていた21世紀のわが国の医療組織のクリニカル・ガバナンスを再び根本から問い直す契機になりました。「WHO患者安全カリキュラムガイド多職種版2011」の冒頭で,当時のWHO事務局長Margaret Chan博士が表明した状況認識,“One of the greatest challenges today is not about keeping up with the latest clinical procedures or the latest high-tech equipment. Instead, it is about delivering safer care in complex, pressurized and fast-moving environment.”は, 2021年の現在にもそのままあてはまります。
患者安全学も常に進歩しています。近年の大きな潮流のひとつは,Safety-Ⅱおよびレジリエントヘルスケアという概念の普及とその実装化への試みです。失敗を振り返り教訓を学ぶSafety-Ⅰと,日常の成功に着目して現場の調整力を強化するSafety-Ⅱは,相反するものと捉えられがちですが,決してそうではありません。状況に応じてそのバランスを変えつつ,2つのアプローチを両立させて患者安全を常に維持することが私達の目標です。例えるなら,Safety-ⅠとSafety-Ⅱは楕円の2つの焦点です。2つの焦点からの距離の和が一定になる点が描く滑らかな軌跡が,患者安全という成果です。そのような思いから,『麻酔科S&S症例ファイル』と改題した第2版が誕生しました。もし本書を読まれた方が楕円の軌跡が滑らかでないと感じたとすれば,それはひとえに編者である私の力量不足によるものです。Safety-ⅠとSafety-Ⅱ(+将来的にはSafety-Ⅲ?)の統合を目指して,学びを続けたいと思います。
改題した第2版ですが,その基本的コンセプトは初版のものを受け継いでいます。すなわち,本書は「患者影響度にかかわらずエラーの原因分析と再発防止に自律的に取り組む」という医療専門職の責務の実践であり,医師のプロフェッショナリズムを探究するひとつの試みです。「麻酔科」症例ファイルと銘打っていますが,取り上げた症例に現れるエラーの多くは,麻酔科に特有の知識・技術に関連したものではなく,どの診療科でも起こりうるものです。その意味で初版同様に,麻酔科以外の医師,特に臨床研修医や専攻医などの若手医師,およびその指導医の方々にも本書を手に取っていただきたいと思っています。
“To err is human”であると同時に,“To save the next victim is also human” です。冒頭で言及した「ある特定機能病院」は,苦い医療事故の教訓を土台に,今では患者安全の教育と実践のトップランナーとしてわが国の医療を牽引しています。
本書が,安全な医療を提供できる,自立と自律の精神を身につけた若手プロフェッショナル医師の育成と,医療現場における安全文化の醸成に少しでも貢献できるなら,編者としてこれに優る喜びはありません。