1 神経障害性疼痛とは何か?
神経障害性疼痛は“体性感覚神経系の病変や疾患によって起こる疼痛”と定義されている。先進国での有病率は一般人口の約7%,中高齢者に限ると約15%とされる。痛みの病態ごとに臨床的特徴は異なるが,神経障害性疼痛は中でも重症度が最も高く,QOLの低下が著しい。
神経障害性疼痛の診断はフローチャート式の診断アルゴリズムに則って行われる。まず,痛みの現症と病歴(痛みの発症契機とその経過,併存疾患の有無,現在の痛みの状況と日常生活に対する影響)を問診し,「痛みの範囲は神経解剖学的に妥当であるか?」と「痛みを生じさせるような病変や疾患が存在するか?」を確認する。この両方を満たした場合には,続いて,神経障害性疼痛を鑑別疾患に挙げ,身体所見と客観的検査所見を検討する。身体所見では,「神経診察により,痛みの範囲に一致する体性感覚障害の所見があるか?」を確認し,検査所見では「神経電気生理学的検査での異常や,MRIなどの画像検査で,神経障害・病変の可能性があるか?」を確認する。身体所見と検査所見の両方で当てはまる場合に神経障害性疼痛と確定するが,その一方だけでも,神経障害性疼痛の可能性を考慮し,治療することが推奨されている。
神経障害性疼痛は,高齢者の歩容の安定性にも悪影響を与えるなど,ADLとQOLへの悪影響が大きいため,プライマリ・ケアの診療早期から積極的にスクリーニングすることが必要である。疼痛専門医以外でも痛みの性質から臨床現場で簡便に神経障害性疼痛をスクリーニングできるpainDETECTが開発されており,便利である。スクリーニングツールが神経障害性疼痛を疑う契機となり,診断から神経障害性疼痛に応じた薬物療法が早期に導入されることや,専門医療機関への紹介の判断材料として積極的に活用されることが望まれる。
2 神経障害性疼痛薬物療法の基本的な考え方
神経障害性疼痛に対する治療法の中でも,薬物療法が最もエビデンスレベルが高く,標準的な治療法として推奨されている。薬物療法を最適化するためには,エビデンスに基づいた治療アルゴリズムに則った薬剤選択が必要である。
第一選択薬には“複数の神経障害性疼痛の病態(疾患)に対して有用性が確立している薬剤”が挙げられており,Caチャネルα2δリガンド,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI),三環系抗うつ薬(TCA)が挙げられる。第二選択薬の基準は“1つの神経障害性疼痛の病態(疾患)に対して有用性が確立している薬剤”と設定され,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(ノイロトロピン®)と弱オピオイド鎮痛薬に分類されるトラマドールが挙げられる。強オピオイド鎮痛薬は,長期使用時におけるリスク-ベネフィット比がやや悪化する可能性があることから,第三選択薬に位置づけられている。しかし,強オピオイド鎮痛薬は神経障害性疼痛全般に対して,最も高い鎮痛効果を発揮する薬剤である。
3 治療を最適化するための患者評価のポイント
筆者らは神経障害性疼痛を含む運動器の慢性疼痛の診療経験をふまえ,ロコモティブシンドロームと痛み,さらに,これらに伴う心理的要因がループ状に悪影響を与え合う「痛みの悪循環」モデルを提案している。加えて,身体的QOL障害が顕著な患者では,この痛みの悪循環モデルに加え,睡眠障害を伴う。したがって,痛みの治療においては,治療ゴールを最適化するために,痛みそのものだけではなくこのような悪循環全体と睡眠障害を評価することが必要である。
伝えたいこと…
神経障害性疼痛に対する薬物療法では,痛みの軽減だけを治療目標に設定するだけでなく,痛みの悪循環モデルと睡眠障害を治療効果の評価対象とし,生活機能全般の改善によるQOLの改善を治療目標に設定することが必要である。