監修: | 大瀬戸清茂(東京医科大学麻酔科学講座教授) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 648頁 |
装丁: | 口絵カラー |
発行日: | 2013年07月31日 |
ISBN: | 978-4-7849-6074-3 |
版数: | 第5版 |
付録: | - |
●第一線のスタッフ80名によるペインクリニシャン必携テキスト!
●神経ブロックおよび薬物療法の役割を理解し、診断することを重視。それをふまえ、患者に応じた実際的・多面的な治療法を組み合わせて対応することをめざした書籍です。
●ペインクリニックにおける各種疾患のとらえ方に重点をおき、適応疾患100余を紹介し、解説を加えました。
● 頻用する薬剤(漢方薬も含む)は巻末表にて一覧できます。
診療科: | 麻酔・ペインクリニック | 麻酔・ペインクリニック |
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総論
Ⅰ.ペインクリニックとその意義
Ⅱ.疼痛の概念と臨床面でのとらえ方
Ⅲ.ペインクリニックの診断
1.問診・視診・触診
2.画像診断
3.自律神経機能検査
4.神経学的検査
5.核医学検査
6.心理検査
7.末梢循環の検査
8.電気診断,発汗計
9.電流知覚閾値検査
10.その他
11.疼痛の評価法,疾患の治療判定法
各論 Ⅰ 全身にみられる疼痛の疾患
1.悪性新生物の疼痛(癌性疼痛)
2.緩和ケア
3.帯状疱疹,帯状疱疹後神経痛
4.単純疱疹
5.CRPS
6.末梢血行障害
7.末梢神経障害(ニューロパチー)
8.熱傷,電撃傷
9.脳血管障害後の疼痛
10-1.脊椎腫瘍
10-2.脊髄腫瘍
11.骨粗鬆症
12-1.炎症性疾患:化膿性脊椎炎,椎間板炎
12-2.炎症性疾患:脊髄硬膜外膿瘍
13-1.非特異的炎症:リウマチ,膠原病
13-2.非特異的炎症:関節リウマチ(RA)(リウマチ性脊椎炎)
13-3.非特異的炎症:強直性脊椎炎
13-4.非特異的炎症:痛風
14.entrapment neuropathy(神経絞扼症候群)
15.painful legs and moving toes,painful arm and moving fingers
16.腱鞘炎
17.線維筋痛症
18.脳脊髄液漏出症(脳脊髄液減少症)
19.その他の疾患
各論 Ⅱ 頭痛
1.総論
2.片頭痛
3.緊張型頭痛
4.群発頭痛
5.薬物乱用頭痛
6.側頭動脈炎
7.鼻副鼻腔炎,術後性上顎?胞
8.顎関節症
9.Tolosa-Hunt(トロサ-ハント症候群)
10.典型的三叉神経痛
11.舌咽神経痛
12.上喉頭神経痛,迷走神経痛
13.症候性三叉神経痛
14.非定型顔面痛
15.舌痛症
16.その他
各論 Ⅲ 頸肩上肢痛
1.総論
2.頸椎症性神経根症
3.頸髄症
4.後縦靱帯骨化症,黄色靱帯骨化症
5.頸椎椎間板ヘルニア
6.頸椎症(頸部脊椎症)
7.頸椎椎間関節症
8.頸椎手術後症候群
9.Pancoast(パンコースト)症候群
10.胸郭出口症候群
11.むちうち関連障害(外傷性頸部症候群)
12.肩関節周囲炎
13.肘・手・指関節・肘関節
各論 Ⅳ 胸背部痛
1.総論
2.癌性疼痛
3.肋間神経痛
4.脊椎圧迫骨折
5.開胸術後疼痛症候群
6.胸肋鎖骨間骨過形成症(掌蹠膿疱症),その他〔slipping rib syndrome,Tietze(ティーツェ)症候群〕
7.胸椎椎間関節症
8.胸椎椎間板ヘルニア
9.胸椎後縦靱帯骨化症(胸椎OPLL)
10.胸椎黄色靱帯骨化症(OLF)
11.肋骨骨折
各論 Ⅴ 腹部内臓痛
1.総論
2.癌性疼痛
3.膵炎
4.その他の内臓痛
各論 VI 腰下肢痛・関節疾患
1.総論
2.急性腰痛,いわゆる“ぎっくり腰”
3.慢性腰痛
4.腰椎椎間板ヘルニア
5.腰椎分離・すべり症
6.腰椎すべり症,腰椎変性すべり症
7.脊柱管狭窄症
8.腰椎椎間関節症
9.腰部脊椎症(変形性脊椎症)
10.いわゆる腰痛症
11.failed back surgery syndrome(FBSS)
12.その他(下腿?足部)
13.仙腸関節痛
14.股関節疾患(変形性股関節症)
15.膝関節疾患(変形性膝関節症)
16.変形性足関節症
各論 VII 骨盤臓器,肛門周辺部の疼痛
1.肛門部痛
2.尾骨痛
3.会陰部痛
4.痔核
各論 VIII 心因性を主とした疼痛
1.総論
各論 IX 疼痛以外の疾患
1.総論
2.Ménière(メニエール)病
3.突発性難聴
4.アレルギー性鼻炎
5.多汗症
6.赤面症
7.Bell(ベル)麻痺
8.Ramsay Hunt(ハント)症候群
9.眼筋麻痺症候群
10.特発性顔面痙攣
11.本態性眼瞼痙攣
12.Meige(メージュ)症候群
13.チック
14.吃逆
15.痙性斜頸
16.眼疾患
17.運動麻痺疾患
18.筋疾患
付表1 薬物療法分類:薬剤表
付表2 部位別・診断名による漢方薬の頻用処方
索引
しかしながら、神経ブロックは、神経に直接あるいは神経の近くに薬液を注入して、神経の興奮伝導を遮断する。薬液を神経またはその近くに注入することは、一種の局所薬物療法とも言える。しかも、神経ブロックは高濃度の薬液を神経に直接注入することができ、鎮痛薬で効かない疼痛でも効果を上げることができる。
また、神経ブロックではX線や超音波を用いることによって、針先の位置と予測した障害部位や障害神経との解剖学的な関係を可視化する。その障害部位への針先穿刺や薬液注入により、再現痛が生ずれば、障害部位や障害神経の同定に役立つ。さらに、薬液注入により疼痛の消失があれば、画像診断では得ることのできない、障害部位の機能的診断が可能となる。将来、これが進展して神経ブロック機能診断学が誕生するであろうと考えている。
■臨床的evidence based medicine(EBM)の実践について
臨床研究のEBMは、2つの治療法を比較して、統計学的有意差によって治療効果の有無を判定する。「一方の治療効果が優れている」というのは、100%片方が優れているという明確な答えが出せないために、統計を使って確率で示している。その上、「どの程度の差で優れているのか」という効果の大きさについてはまったく触れていない。
大規模臨床試験とは、「症例数を増やして大規模にしなければ効果が証明できないほど、わずかな効果(差)しかない臨床研究」と受け取ることができる。すなわち、症例数が少ない研究で有意差が出たものほど効果は大きい。たとえ数例であっても神経ブロックにより疼痛が、visual analogue scale(VAS)の8/10が0/10になり、持続すれば明らかに意味のある効果があったと言える。
また、患者の意志や状態によっては、あえて有効な治療法を使わない、または使えないという選択肢もありうるので、治療の選択は個々の患者や家族との協議で決めていくことが原則となる。すなわち、有効なEBM、患者の症状と周囲環境、患者の選択(好み)と行動、医者の経験値で治療を取捨選択して決めていくことが重要である。患者ひとりひとりとともに診療行為を決定する、オーダーメード治療というのが臨床でのEBM実践の中で最も重要な位置づけになろう。
ペインクリニックの痛む患者への最終治療目標は、QOLを改善して日常生活を可能にすることである。効果が明らかなものは、そのEBMがなくても事実に従い、効果が微妙なものはEBMを吟味して、目の前の患者にどのように適用するかを選択する。
実際の医療の現場では、治療という手段を用いて、日々の課題を解決しながら、最終目標へ進めていくことが重要であると考えている。その治療手段を決定する上で、EBMを参考にしながら、そのつど最適と思われる治療法を選択していくことが必要であろう。今回の改訂でも、効果のはっきりしている症例報告はそれだけでもEBMに匹敵する事実であり、随所に掲載したので、利用して頂きたい。
改訂第5版は、神経ブロックの役割を理解し、診断を重視して、患者に応じた実際的で多面的な治療法を組み合わせた治療を行うことをめざした。国民の願いは、速やかな疼痛の軽減と社会復帰であり、ペインクリニック的な治療へのアプローチは、今後さらに重要になってくると思われる。本書が、疼痛の治療に悩む医療者にとってささやかな手助けになることを切望する。さらに、ご批判があれば我々にもフィードバックして頂きたい。
2013年6月
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。