わが国の40年間にわたる人口動態統計死亡票で作成された死因別コホート生命表を用い,昭和ヒトケタ(1926~34年)出生男性の50~70歳の死因別死亡率を前後世代と比較した。その結果,肝疾患,肝癌の死亡率が突出して高く,それ以外の死因では違いがなかった。また昭和フタケタや戦後世代と肝癌死亡率を比較しても40歳代前半では世代間に差がなかった。これより,20歳代の頃(1954年頃)に全国的に覚醒剤が乱用され,不潔な注射器の使い回しによりC型肝炎に感染し,キャリア化して50歳頃になって肝癌死が急増したことがこの世代の短命の主因である,と結論した。
1980年,大久保ら1)は「中年死亡の増加現象」を,またほぼ同時期に逢坂ら2)も「わが国の中年期死亡に関する統計的観察」を発表し,昭和ヒトケタ男性短命説として注目を集めた。筆者は生命表の分析から「1926~38年出生男性において30歳以降の生存率の停滞が明瞭に観察され,その相対的低下は1932年生まれにおいて最も顕著であった。この年に出生した男性のうち30〜65歳まで生存した者の割合は期待値より1.87%低かった」と短命説を再確認した3)。今回,過去40年間の人口動態統計死亡票から作成された死因別コホート生命表を用い,これら世代の早期死亡の原因は1950年代に全国の青少年に蔓延した覚醒剤乱用における注射器の使い回しによりC型肝炎に感染し,中年期になって肝疾患・肝癌を発生させたため,と結論した。
厚生労働科学研究「人口動態統計の個票集計による死因別コホート生命表作成に関する研究」で作成された「百世代死因別(コホート)生命表」を用いた。1912~2011年の大正・昭和・平成にわたる百世代について入手可能な1972~2011年40年分の死亡票を用い,コホートは暦年(1~12月)単位ではなく学年(4~3月)単位で作成された。全死因のほか,25死因について,死亡数,年齢別死亡率そして累積死亡率の3表と男女別各歳生存数から成っている(成果物はDVDとともに全国主要図書館に寄贈されている)。
40年分しかカバーしていないため,データが完全にそろっている年齢として50~70歳を選び,昭和ヒトケタ世代を中心とする1921~41年の21コホートについて観察した。分母は50歳時生存数を用い,50~70歳の累積死亡率をコホート間で比較した。なお,50歳時生存数は1970年10月人口から50歳までの死亡数を減じて算出した。
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