(三重県 T)
ABPAにおいては,末梢血の好酸球増多が以前より検討され,診断基準にも盛り込まれてきました。一方,本症における喀痰中の好酸球増多も気道炎症を反映する指標として,検討は多くはありませんが,報告されています1)。しかし,喀痰中の好酸球増多は気管支喘息をはじめとする好酸球性気道炎症をきたす疾患で認められ,ABPAに特異的な所見ではありません。ただし,ABPA症例の喀痰中の好酸球増多は気管支喘息などより高値であること,好中球増多も伴うこと,ABPA-central bronchiectasis(CB)はABPA-seropositive(S)より好酸球増多を認めることなどが報告されています1)。さらに,ABPA症例での検討で,ステロイド薬投与下に残存する喀痰中の好酸球増多の改善に抗真菌薬投与が有効であった,との興味深い報告もあります2)。
さて,ご質問の症例の喀痰はどのように採取されたものでしょうか。50%の好酸球増多というのは,前述のこれまでに報告されているデータと比べてもかなり多い印象です。これまでの報告では(多くは誘発痰での検討ですが),2.4~8.3%程度です。この症例はABPA-CBではなくABPA-Sであったとのことで,いわゆる中枢性気管支拡張は認めなかったようですが,粘液栓はいかがだったでしょうか。ABPAの粘液栓は豊富に好酸球を含む粘稠性のある分泌物であり,allergic mucin(アレルギー性ムチン)やeosinophilic mucin(好酸球性ムチン)と呼ばれ,時に茶褐色の粘液栓として喀出されることがあります。粘液栓の中に真菌染色などで真菌が確認された,いわゆる真菌陽性の好酸球性ムチンは本症の病理学的診断基準にも盛り込まれ3),これは本症の重要な病態の1つとして知られています4)。ご質問の症例の好酸球増多の検討に用いられた喀痰が粘液栓であれば,好酸球をかなり豊富に含んでいた可能性があり,かつ真菌染色でアスペルギルスなどの糸状菌が確認できれば(あるいは真菌培養陽性であれば)診断的価値は高いと思います。
【文献】
1) Wark PA, et al:Eur Respir J. 2000;16(6):1095-101.
2) Wark PA, et al:J Allergy Clin Immunol. 2003; 111(5):952-7.
3) Bosken CH, et al:Am J Surg Pathol. 1988;12 (3):216-22.
4) 蛇沢 晶, 他:日呼吸会誌. 1998;36(4):330-7.
【回答者】
小熊 剛 東海大学医学部内科学系呼吸器内科学准教授