高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)の臨床的意義について検討した。胸部症状,心電図に加えて高感度心筋トロポニンI測定を併用することで,急性心筋梗塞が発症早期に検出され,不安定狭心症の軽度の心筋傷害でも検出可能であった。また,心筋トロポニンI高値群(hs-cTnI≧40pg/mL)において,心血管イベント,心血管死,全死亡,心不全,冠動脈疾患イベント,脳卒中の発生率が有意に高かった。高感度心筋トロポニンIは,心筋傷害の指標として,心疾患の診断,病態評価および予後予測に関して,日常診療においてきわめて有用な検査である。
心筋トロポニンは心筋に特異的に存在し,その血中濃度である血中心筋トロポニン値は,心筋傷害のバイオマーカーとして有用とされる。2000年に発表された欧米の急性心筋梗塞の診断基準1) 2) が,症状および心電図変化が中心だった従来の基準から,心筋トロポニン上昇を重視する基準に大きく変更された。そして,日常診療においては,心筋トロポニンT全血迅速定性検査(トロップT)が急性心筋梗塞の診断に有用であり,広く使われてきた3)。近年,血中心筋トロポニン測定試薬が改良されて,診断精度,感度が高くなり,2007年の欧米の診断基準では,心筋バイオマーカーとして高感度心筋トロポニン(高感度心筋トロポニンI,高感度心筋トロポニンT)が推奨されている4)。
本稿では,日常診療における高感度心筋トロポニンI(high sensitive cardiac troponin I:hs-cTnI)による,心疾患の診断,病態評価および予後予測について検討した。
2009年7~10月の4カ月間に,土田内科循環器科クリニックを受診した外来通院患者で,hs-cTnI値測定の承諾を得た,連続787例(男性383例,女性404例,平均年齢68.9歳)を対象とした。通常の外来受診時に随時採血して,hs-cTnI値は,測定試薬「Siemens TnI Ultra」にて測定した。なお,hs-cTnI値の最小検出感度は6pg/mL(0.006ng/mL),健常人の99パーセンタイル値(基準値)は40pg/mL(0.040ng/mL),10%変動率(coefficient of variation:CV)値は30pg/mL(0.030ng/mL)である。また,血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド濃度(plasma brain natriuretic peptide:BNP)も同時に測定試薬「シオノリアBNP」にて測定した。
さらに787例について,心血管疾患予後との関係を検討するため,hs-cTnI 40pg/mLで2群にわけて(hs-cTnI≧40pg/mLと<40pg/mL),平均757±259日間観察して検討した。一次エンドポイント(複合)は心血管イベント,二次エンドポイントは全死亡,心血管死,心不全,冠動脈疾患イベント,脳卒中(いずれも入院,あるいは死亡)とした。加えて,hs-cTnI値で4群(<10pg/mL,10~40pg/mL,40~100pg/mL,≧100pg/mL)にもわけて,心血管イベント,全死亡について検討した。
また,hs-cTnI値とトロップTとの関係をみるために,胸部症状を訴えて受診した270例について,hs-cTnI値とトロップTを同時に測定して比較検討した。各心疾患の診断は,症状,理学所見,心電図,胸部X線のほかに,必要な例には心エコー図,ホルター心電図を施行した。なお,複数の心疾患を有する例は,各心疾患にそれぞれ重複して分類した。
hs-cTnI値の代表値は中央値で示した。心血管事故の発生率はカプラン・マイヤー法で推定し,発生率の差はログランク検定を行い,相対リスクの推定はコックスの比例ハザードモデルで算出した。統計解析はStatViewを用いて行った。P<0.05にて有意差ありとした。
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