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胸痛[今日読んで、明日からできる診断推論 実践編(4)]

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  • 身体所見・検査結果

    バイタルサイン:意識清明,体温36.6℃,血圧120/70mmHg(左右差なし),心拍数80回/分,呼吸数24回/分, SpO2 95%(室内気)。
    身体所見:眼瞼結膜蒼白なし,眼球結膜黄染なし,胸部 皮疹・圧痛なし,呼吸音清,過剰心音なし,心雑音なし,腹部 平坦・軟・圧痛なし,四肢 両側橈骨・足背動脈触知良好,チアノーゼなし,浮腫なし。
    12誘導心電図検査:NSR,HR 90,NAD,V1 −V4 でST上昇。
    動脈血液ガス所見:pH 7.432,PaCO2 24.0mmHg,PaO2 83.4mmHg,HCO3- 22mEq/L,Lac 13mg/dL。
    血液検査:WBC 9800/μL,Hb 14.3g/dL,MCV 97.0fL,Plt 24.0万/μL,TP 6.6g/dL,Alb 4.0g/dL,CPK 140IU/L,AST 24IU/L,ALT 25IU/L,LDH 134IU/L,Cr 0.8mg/dL,BUN 24mg/dL,Na 137mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 102mEq/L,Ca 8.8mg/dL,T-bil 0.8mg/dL,CRP 0.02mg/dL,トロポニンI 検出感度以下。
    凝固検査:PT 82%,APTT 34秒,Dダイマー 0.8μg/mL。
    胸部X線検査:CTR 52%,縦隔拡大なし,肺野異常なし。
    心エコー検査:中隔前壁の壁運動低下あり,心嚢液貯留なし,弁膜症なし,大動脈起始部に解離の所見なし。


    分析的アプローチ

    典型的なACSの症状に加え,12誘導心電図でV1−V4においてST上昇を認めた。隣接する2つ以上の誘導で1mm以上のST上昇(LR 22.0)を認めたとき,STEMI(ST上昇型心筋梗塞)の可能性がきわめて高くなる。その他,ACSに関連する所見として,ST低下 (LR 4.5),Q波(LR 22.0)などがある3)
    本症例は,病歴・身体所見を併せて考えると,ACSの可能性がきわめて高い状態である。トロポニンIやCPKといったバイオマーカーが上昇していないが,これらは発症3~4時間後から上昇するため,ACSの可能性を下げるものではない。確定診断と治療を目的とした心臓カテーテル検査を行うために,循環器内科へコンサルトを行う。

    ■なぜその疾患名が消えたのか

    大動脈解離と致死的な肺塞栓症は,造影CTなしに否定することは困難である。しかし,本症例においては,病歴,身体所見,胸部X線・心エコーから「大動脈解離に併発したACS」である可能性は低い。また,ACSの可能性が高いこととWells criteria 0点であることから,肺塞栓症の可能性も低い(表1)。
    胸部に皮疹・圧痛がないことで,帯状疱疹,筋骨格系の痛みではないことを確認した。また腹部の圧痛がないことで,腹腔内臓器疾患の可能性も低下した。

    私のクリニカルパール

    心疾患以外に心電図異常をきたす疾患には,大動脈解離や脳出血・梗塞,胆嚢炎,膵炎等がある。心電図に振り回されないよう,病歴と身体所見を併せた診断をする。

    最終診断:急性冠症候群(ACS)


    ●文献
    1) Cayley WE Jr:Am Fam Physician. 2005;72(10):2012-21.
    2) Swap CJ, et al:JAMA. 2005;294(20):2623-9.
    3) Chun AA, et al:Am J Med. 2004;117(5):334-43.
    4) Bushnell J, et al:Ann Emerg Med. 2005;46(1):90-2.
    5) Gaul C, et al:Cerebrovasc Dis. 2008;26(1):1-8.
    6) 日本循環器学会, 他:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版). 日本循環器学会, 2006.
    7) Konstantinides S:N Engl J Med. 2008;359(26):2804-13.

    ●参考
    ▶ 野口善令, 編:今日読んで、明日からできる診断推論. 医事新報. 2013;4644:6-144.

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