鹿児島大病院で多剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症の院内感染が疑われる事例が発生したことを受け、厚生労働省はこのほど、都道府県などを通じて院内感染対策の徹底を求める事務連絡を発出した。
MDRAは、アシネトバクター属菌のうち、広域β-ラクタム、アミノグリコシド、フルオロキノロンの3系統の抗菌薬すべてに耐性を獲得した菌株。抵抗力の低下した人に感染すると、人工呼吸器関連肺炎、血流感染症、創部感染症などの症状を引き起こす。MDRA感染症は感染症法上の5類感染症で、診断した場合は7日以内に保健所に全数を届け出なければならない。
鹿児島大病院が8月3日に公表した報告資料によると、2016年9月以降に入院した患者15人からMDRAまたは類似の耐性遺伝子を保有する菌株が検出され、うち8人が死亡した。患者15人のうち14人はICU在室中または退室後に耐性菌が検出されており、手洗い場や病室の褥瘡予防マットレスからも検出されていた。同病院はICUの病室環境や医療従事者の汚染された手指を介した伝播の可能性があるとしている。
厚労省が8日付で発出した事務連絡には過去の通達資料も添付されている。その中では、MDRAの院内感染対策で留意すべき点として、①日常的な医療環境の衛生管理の実施と標準予防策の励行、②菌が尿や喀痰などから検出された患者における接触感染予防策の徹底、③病院内の湿潤箇所、特に人工呼吸器の衛生管理と消毒―などを挙げている。
なお、国立感染症研究所のQ&Aでは、診療所の外来などでMDRAに感染する心配はほとんどなく、日常生活で感染するリスクはさらに低いとしている。