近年アスピリンは、心血管系(CV)1次予防例に対するCVイベント予防作用を否定するランダム化試験が、複数報告されている。ではもう少しCVリスクの高い患者ならどうだろう――。このような発想で始められたのが、今回報告されたARRIVE試験である。CVリスク低リスクではなく「中等度」例を対象に、アスピリンの有用性が検討された。しかしCVイベント抑制作用は、プラセボと有意差を認めなかった。J. Michael Gaziano氏(ハーバード大学、米国)が、26日の「HOTLINEセッション1」で報告した。
ARRIVE試験に登録されたのは、欧米のCVリスクスコアに基づき、10年間のCVイベントリスクが20~30%と予想された、CV1次予防1万2546例である。ただし糖尿病例は除外されている。欧米7カ国から登録された。参加施設のほとんどは、プライマリケアである。対象の平均年齢は64歳、約30%が女性だった。予想10年間CVイベント発生率は、目標としていた20~30%に届かず、17%にとどまった。
これら1万2546例が、アスピリン100mg/日群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で60カ月(中央値)追跡された。
その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・不安定狭心症・脳卒中・一過性脳虚血発作」の発生率は、アスピリン群で4.29%と、プラセボ群の4.48%と有意差を認めなかった(P=0.60)。ただしプラセボ群におけるイベント発生率は、予想値の約3分の1だった。CV1次予防に力が入れられるようになった今日、アスピリン以外のCV予防治療により効果がマスクされた可能性がある。しかし降圧薬服用の有無、スタチン服用の有無は、この結果に有意な影響を与えていなかった。
一方、消化管出血は、大抵が軽微なものだったもののアスピリン群では0.97%に認められ、プラセボ群(0.46%)に比べ有意に高リスクとなっていた(ハザード比:2.11、95%信頼区間:1.36-3.28)。
さて、上記はいずれもIntention-to-treat解析である。しかし本試験では両群とも30%近くが脱落している。そこで、両群とも服薬指示を60%以上遵守した「プロトコール遵守例」のみでも比較した。にもかかわらず、やはり両群間に1次評価項目リスクの有意差は認められなかった。
アスピリンが無効だった理由につき「肥満」の可能性を挙げたのが、指定討論者であるUlrich Laufs氏(ライプチヒ大学、ドイツ)である。背景には近時報告された、「低用量アスピリンでCVイベントの1次予防ができるのは体重70kg未満のみ」とするメタ解析である[Rothwell PM, et al: Lancet. 2018; 392: 387]。ARRIVE試験参加例の体重中央値は82kgだった。
いずれにせよ、本試験の結果は、同じく本日報告されたASCEND試験(別項参照)とともに,無症候性のCVイベント1次予防例に対する抗血小板療法を「クラスⅢ」(適応がないと一般的に考えられている)とする、2016年版ESC心血管系疾患予防ガイドラインを支持するものとなった。
本研究はBayer社の資金提供を受けて行われた。
これらの結果は26日、報告と同時に、Lancet誌Webサイトに掲載された。