(東京都 F)
【画一的な処方で緩和するのは難しく,各症状に合わせた処方が必要となる】
PHNは神経障害性疼痛であり,治療に難渋する疾患の1つで,西洋医学的薬物治療でも苦慮することがしばしばあります。漢方治療で改善することはありますが,画一的な漢方の投与では緩和させるのが難しい場合があります。
PHNでアロディニアが明確に認められる場合には,抑肝散が奏効することがあります。抑肝散は,動物実験と臨床経験から抗アロディニア作用があることが明らかにされています1)。また,PHN部位には冷えが認められることが多く,冷えを伴うときには抑肝散と麻黄附子細辛湯の併用で痛みの軽減がみられます。頻度は低いのですが,熱感が認められる場合には,麻黄附子細辛湯では痛みを悪化させることがあるので,越婢加朮湯を併用します。冷えと熱感は他覚的所見でなく,自覚的症状を参考にして選択します。
長期間持続するPHNの痛みで交感神経系のバランスが崩れている場合には,四逆散や柴胡疏肝湯(エキス剤では四逆散合香蘇散)に効果があり,特に胸部から頸部にかけての痛みに有効です2)。四逆散の腹候としては両側の腹直筋の緊張(二本棒),特に上腹部から下腹部にかけて腹部全体での緊張,胸脇苦満,心下痞硬が重要な所見です。同時に手の湿潤,残便感,うつ状態,胸脇部から背部にかけての緊張・痛みの症状・所見を目標に処方します。桂姜棗草黄辛附湯は桂枝湯去芍薬合麻黄附子細辛湯で,エキス剤では桂枝湯と麻黄附子細辛湯の合方でその方意として使用できます。身体全体の冷え,手足の冷え,知覚麻痺,寒気,腹部膨満と腹鳴などを目標として処方します。
長期間にわたるPHNで治療に反応しがたい症例には,腹部の所見と冷えを参考に桂枝湯合麻黄附子細辛湯を使用してみる価値があります。高齢のPHNの患者は燥症を呈することが多い(皮膚や舌の乾燥傾向)ので,滋潤する六味丸合麦門冬湯の効果があり,逆に湿症の患者では小柴胡湯や大柴胡湯,半夏厚朴湯で効果があるとの報告もあります3)。またPHNの一部には桂枝加朮附湯合四物湯が著効を示すことがあります3)。
【文献】
1) 光畑裕正:ペインクリニック. 2017;38(353): S407-15.
2) 今井美奈, 他:日東洋医誌. 2014;65(2):115-23.
3) 平田道彦:ペインクリニック. 2015;36(318): 311-9.
【回答者】
光畑裕正 みつはたペインクリニック院長