No.4927 (2018年09月29日発行) P.63
瀧野陽子 (慶應義塾大学病院緩和ケアセンター)
登録日: 2018-09-26
最終更新日: 2018-09-25
(1)一般的な処方。
(2)極量(1回量および1日量)。
(3)麻薬以外に用いられる薬剤について。
(4)デノスマブ投与が必要になる場合。
(5)肝機能・腎機能検査,血算,その他は何日間隔で測定すればよいでしょうか。
(千葉県 M)
【副作用に留意して鎮痛薬,鎮痛補助薬を選択し,用量調整,リハビリ,環境整備等を行う】
骨転移では,痛み,骨折,麻痺,高カルシウム血症による意識障害など,多様な症状を呈する可能性があります。全人的な評価の上,個々の症状への適切な対応が必要です。
骨転移によるがん性疼痛の場合にも,基本的には「WHO方式がん疼痛治療法」に則って目標の設定,痛みの評価,調整を行います。軽度の痛みには非オピオイド鎮痛薬の処方を基本とし,軽度~中等度の痛みには弱オピオイド,中等度~強い痛みには強オピオイドを加えます1)2a)3)。
実際に使用する薬剤は,痛みの強さや性状により,臓器障害や既往・併存症,併用薬などからリスクを考えて選択します。非オピオイド鎮痛薬のうち,アセトアミノフェンでは肝機能障害など,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)では腎機能障害や心血管イベント・心不全等のリスクなどに注意します。その他,NSAIDs使用時には,NSAIDs潰瘍を予防する目的でプロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,高用量のH2受容体拮抗薬のいずれかを使用します2b)。オピオイド鎮痛薬を処方する際には,便秘や悪心などの副作用対策として便秘薬や制吐薬を同時処方することもあります2c)。特に高齢者では,臓器機能が全般的に低下していることも多く,オピオイド鎮痛薬は少量から開始します。また,個々の患者の負担や生活パターンに配慮し,剤形や服薬回数などを工夫します。オピオイド鎮痛薬の開始後に持続痛が緩和されたら,臓器障害など有害事象のリスクや内服負担を考慮し,アセトアミノフェンやNSAIDsの中止についても検討します。
アセトアミノフェンやNSAIDs,弱オピオイドでは,適用・最大投与量が設定されており,その中で臓器機能などに合わせた調整を行いますが,強オピオイドであるモルヒネ,オキシコドン,フェンタニルでは,効果があれば痛みに応じた増量で対応するのが実情です。ただし,オピオイド増量に見合う鎮痛効果がなければ,耐性を疑って他のオピオイドに薬剤を変更する場合もあります。日本緩和医療学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014年版」もご参照下さい2d)。
神経障害性疼痛を伴い,非オピオイド鎮痛薬やオピオイド鎮痛薬のみで対応困難な場合は,鎮痛補助薬の併用も考慮します2e)。副作用に留意した薬剤選択が必要です。たとえば,プレガバリンを高齢者に処方する場合は,ふらつきや眠気の出現に留意し,1回25mg 1日1回眠前の少量内服から開始して,評価の上で用量調整します。腎機能障害には減量も必要です。デュロキセチンは1回20 mg 1日1回で開始しますが,消化器症状の出現時はモサプリドの併用も検討します。
前立腺癌に対するホルモン治療などの適応については泌尿器科医にご相談下さい。
残念ながら,骨転移による体動時の痛みは,薬剤のみでの緩和が困難な場合もあります。痛みには,麻痺リスクのシグナルとしての意義もあり,痛みを伴う負荷・体動を避けることが脊髄損傷・麻痺の予防につながる可能性もあります。薬剤での調整以外にも,リハビリ,環境整備,痛みを和らげる工夫・ケア(温罨法や冷却など)も重要です。放射線治療,手術治療,神経ブロックなど,集学的な対応も検討します。放射線治療の適応,安静度,コルセット作成や手術治療などの適応は放射線治療医や整形外科医への相談をご検討下さい。
骨転移による病的骨折,これに関連した放射線治療や外科治療,脊髄圧迫などは骨関連事象(skeletal related events:SRE)と呼ばれ,日常活動度(ADL)や生活の質(QOL)の低下,予後の悪化に影響することが示唆されています。SREは統計学的な指標であるとともに,その予防は骨転移の治療目標としても重要です。
デノスマブは骨修飾薬(bone modifying agent:BMA)の1つで,その使用により去勢抵抗性前立腺癌では,SRE発症までの期間が延長するとの報告もあります4)。しかし,低カルシウム血症や顎骨壊死など注意すべき有害事象もあるため,適応は個別に検討します。ビタミンDおよび経口カルシウム剤あるいはこれらの合剤(デノタス®)の使用,血液検査による監視,歯科受診など,有害事象の予防措置が必要です5)6)。
骨転移症例の血液検査時期・間隔についての具体的な推奨事項はありませんが,有症状時には血清カルシウム値,血清アルブミン値,肝腎機能,血算などを含めた血液検査を行うことで,症状の原因や薬剤調整の必要性を評価できる可能性があります。それ以外も骨修飾薬の使用時は,使用前の(初回投与時は使用後1週間頃にも)血液検査で薬剤使用の適応や有害事象を評価して下さい。
【文献】
1) 武田文和, 訳:がんの痛みからの解放─WHO方式がん疼痛治療法 第2版. 世界保健機関, 編. 金原出版, 1996.
2) 日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会, 編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014年版. 金原出版, 2014, p37-41(2a), 74-7(2b), 57-9(2c), 49-51(2d), 78-83(2e).
3) 橋口さおり:Prostate J. 2016;3(2):189-94.
4) Fizazi K, et al:Lancet. 2011;377(9768):813-22.
5) 日本臨床腫瘍学会, 編:骨転移診療ガイドライン. 南江堂, 2015.
6) 日本泌尿器科学会, 編:前立腺癌診療ガイドライン 2016年版. メディカルレビュー社, 2016, p255-6.
【回答者】
瀧野陽子 慶應義塾大学病院緩和ケアセンター