2014年6月、ついに改正医療法(医療介護総合確保推進法)が成立し、2015年10月には医療事故調査制度が始まる。
この制度の唯一の目的は「医療の安全の確保」である。田村憲久厚労大臣(当時)は、「責任追及や紛争解決を目的とした制度ではない」と国会で明言しているし、厚労省ホームページの「医療事故調査制度に関するQ&A」でも、制度の目的を大略以下のように説明している。
“今般のわが国の医療事故調査制度は、WHOのドラフトガイドライン(GL)の「学習を目的としたシステム」にあたります。したがって、責任追及を目的とするものではなく、医療者が特定されないようにする方向であり、第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではないことから、同GLでいうところの非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています。”
このように、本制度の目的は紛争解決(責任追及)ではないし、結果として紛争解決に利用されることもあってはならない。何故なら、医療安全と紛争解決とはその手法において正反対のアプローチが必要なので、紛争解決に利用すれば医療安全が毀損されるからである。
しかしながら、一部の法律家や医療者、患者団体は、依然として本制度を紛争解決に利用しようと考えている。例えば厚労省「医療事故調査制度の施行に係る検討会」構成員でもある宮澤潤弁護士は、「医療事故調は紛争解決のツールとなり得るか」(『月刊 法律のひろば』2014年11月号)という論文を著しているし、事故調に法律家を参加させるよう要求している団体もある。
本制度には、院内事故調査を支援し、医療事故調査・支援センターの業務の委託を受ける組織として「医療事故調査等支援団体」が規定されており、都道府県医師会(以下、医師会)等がその受け皿と考えられている。そうなった場合、医師会内に、「医療事故調査等支援部(仮称、以下「支援部」)」が設置されることになろう。一方、ほとんどの医師会には、医療紛争解決のための組織(以下、「紛争処理組織」)がある。
同じく医療事故を扱う「支援部」と「紛争処理組織」とは、どのように棲み分けるべきであろうか。本制度を紛争解決・責任追及に利用されぬよう、以下を提言したい。
1.会員の医療紛争解決のため、医師会の「紛争処理組織」は温存すること。
2.医師会内に「支援部」を設置する場合、既存の「紛争処理組織」との混同が起こらぬよう、両者を組織的に峻別すること。
3.「支援部」は、医療安全のための事故調査に特化させ、紛争処理機能を持たせてはならない。したがって弁護士も参加させないこと。