医学部の不正入試問題を受け日本学術会議は26日、「医療界における男女共同参画社会の推進と課題」と題するシンポジウムを開催した。女性差別解消に向け、医師の過重労働に頼らない医療提供体制の構築の必要性を共有した。
講演した桃井眞里子氏(自治医大名誉教授)は女性医師の差別について、「医療提供体制の問題であり、医師不足の問題」と強調。「長年献身的労働によって支えられてきた日本の医療提供体制はもう持続しないという段階にきている。それが今、女性医師問題の形として見えているだけの話だ」との考えを示した。
桃井氏は、日本の医師の勤務状況について医療水準の高い国と比較。医師1人当たりの外来診療数は、フランスの2.7倍、イタリアの3.1倍、スウェーデンの7.8倍に上るとした。一方、日本の高額医療機器保有数は諸外国に比べ圧倒的に多いことを問題視し、「過剰診療ではないか」と訴えた。その上で、「日本では医師数を抑制し、医療費削減してきたが、医師が少ないのは根本的な問題。医療費削減を考えるならば、医療の内容をアウトカムと照らして適正なのか精査する必要がある」と指摘。そのためには、「医療の費用対効果のビッグデータを構築し、適正な量の医療について考えなければならない」とした。
女性医師の差別解消に必要な対策について桃井氏は、「女性医師への多様な働き方の提供ではなく、“まともな働き方”を土台にした医療提供体制を考えること」と強調。「家庭・育児は妻任せの献身的な医師像が良い医師という前提で医療が成立してきた」と説明し、「女性医師にだけ『両立』という言葉を当てはめることが既に何らかの意識の偏りを示している」と社会通念が固定されていることに危機感を表した。その上で、女性医師が短時間勤務やワークシェアといった働き方をせずに済む医師対策が求められるとした。
シンポの討論では、ビッグデータの構築について小玉弘之氏(日本医師会常任理事)が進捗を報告した。小玉氏は、地域や診療領域、医療機関を跨いだ診療データの統合的な解析を可能にする「次世代医療基盤法」が5月に施行され、ビッグデータの収集が始まったことを説明。近い将来、ビッグデータの解析により費用対効果などの検証が可能になる体制が構築されるとした。
また、医学部不正入試問題の解決のポイントについて桃井氏は、問題が起こると意識改革の必要性が指摘されがちだが、「意識改革で物事が変わったためしはない。女性医師が増えた状態で医療を提供することで初めて、問題の解決策が出てくるだろう」と意見を述べた。
名越澄子氏(埼玉医大総合医療センター教授)は、女性を指導的な立場に入れる必要性を指摘。学会の幹部に引き入れるためには、教授などの肩書が求められるため、「大学で女性の教授を育ててほしい」とした。
司会を務めた学術会議の副会長で、法学博士の三成美保氏(奈良女子大副学長)は不正入試問題について、「これまで当然だとされてきたところに問題の本質がある。今回、ここにメスを入れたことは、今後の(日本の医療における)大きなターニングポイントになりうる」と展望を語った。求められる医療体制の変革については、「応召義務が医師の聖職性と結びついて、医師と患者が価値観として共有している」と問題視。「戦後の混乱期にできた応召義務に縛られ、医師の労働者としての改革が進まない」と指摘した。三成氏は、応召義務の見直しを医療体制の見直しと絡めて考える必要性を訴えた上で、国民に望まれる意識改革について、「受療のしかたについて何らかの歯止めをかける措置を受け入れなければいけない」とした。
三成氏は今回のシンポを踏まえ、「学術会議として提言をまとめるなど、何らかの形で公表したい」と意欲をみせた。