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多発性骨髄腫の除外診断項目は?

No.4939 (2018年12月22日発行) P.60

小磯博美 (群馬大学医学部附属病院感染制御部)

半田 寛 (群馬大学医学部附属病院血液内科診療教授)

登録日: 2018-12-22

最終更新日: 2018-12-17

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88歳,女性。脳梗塞で入院。恥骨骨折の既往があります(詳細不明)。蛋白分画で著明なMピークを認めました。
・β2マイクログロブリン 2.5mg/L
・IgG 2195mg/dL,IgA 180mg/dL,IgM 97mg/dL
・遊離κ/遊離λ=25.1/20.6=1.22特異抗体による免疫電気泳動でIgG-λのMピーク。POEMS(polyneuropathy,organomegaly,endocrinopathy,M-protein, and skin changes syndrome)を示唆する肝脾腫はありません。
骨髄をみないと断定はできないでしょうが,κ/λが正常なので多発性骨髄腫は否定的でしょうか。他の鑑別疾患についても。

(鹿児島県 Y)


【回答】

【rFLC正常のみでは否定できず,MGUSとの鑑別のため,骨髄中形質細胞割合の確定が必須】

血液検査で,IgG-λ型のM蛋白血症を認める患者の鑑別疾患です。

M蛋白血症を認め,多発性骨髄腫を疑う場合,骨髄穿刺を施行し,骨髄でクローナルな形質細胞が10%以上と増加があり,骨髄腫関連事象があれば,多発性骨髄腫の診断となります1)

88歳の高齢女性で恥骨骨折の既往がありますが骨髄腫によくみられる溶骨性の骨病変かどうか不明です。また,腎機能,カルシウム,貧血の有無等が不明で,多発性骨髄腫を疑う臨床所見と検査値異常の有無が不明です。IgA,IgMは正常範囲内と抑制がみられず,血清遊離軽鎖(serum free light chain:sFLC)のκ/λ比(rFLC)も正常で,多発性骨髄腫の可能性は低いように思われます。

sFLCの異常産生あるいはrFLCの異常は,形質細胞性腫瘍のほとんどの症例で認められ診断に有用ですが,FLC抗原の過剰,軽鎖アミノ酸配列が特殊なパターンをとる場合などでは,本検査の測定値が正常範囲内となって偽陰性になることがあります2)。実際,多発性骨髄腫でもrFLCが正常範囲内になる症例はあります。そのためrFLCが正常ということのみでは,多発性骨髄腫を否定はできません。monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)は,M蛋白は検出されるもののその量は3g/dL未満かつ骨髄でのクローナルな形質細胞割合が10%未満かつ骨髄腫関連臓器障害を認めない病型と定義されています。くすぶり型骨髄腫はM蛋白量が3g/dL以上あるいは骨髄中形質細胞割合が10%以上であり,骨髄腫関連臓器障害を認めないと定義されています。

本症例はIgGが2195mg/dLであり,M蛋白量は3g/dL未満と推測されるので,骨髄中形質細胞割合の確定はMGUSと骨髄腫の鑑別のために必須となります。髄外形質細胞腫の中にはM蛋白産生量が少ないものもあり,MGUSの中には悪性リンパ腫,アミロイドーシス,慢性リンパ性白血病など他のリンパ性腫瘍と合併するものやそれらへの進展がみられる3)ものもあるので全身CTなどの画像検査も必要となるでしょう。

【文献】

1) Rajkumar SV, et al:Lancet Oncol. 2014;15(12): e538-48.

2) 日本骨髄腫学会, 編:多発性骨髄腫の診断指針. 第4版. 文光堂, 2016.

3) Kyle RA, et al:Br J Haematol. 2006;134(6): 573-89.

【回答者】

小磯博美  群馬大学医学部附属病院感染制御部

半田 寛  群馬大学医学部附属病院血液内科診療教授

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