ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの推奨中止から5年が経過し,問題の先延ばしは公衆衛生学的に問題がある
名古屋スタディでは24症状の発生のリスクを有意に上げているものはなく,因果関係は否定的である
現在までの知見ではHPVワクチンを接種するベネフィットのほうがリスクより大きい
名古屋スタディは,2015年に全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部(以下,連絡会)が出した要望書に名古屋市が応え,名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野が実施したものである。スペースの関係上,オープンアクセスの論文1)を手元に用意頂いて,図表はそちらを参照されたい〔本論文中に出てくる図表は,文献1上(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5887012/)の図表を示す〕。
名古屋スタディは,ワクチン接種の有無,症状の有無のクロス集計より,オッズ比が算出可能な分析疫学研究である。分析疫学は群間比較が根底にあるため,比較妥当性が最重要視される。検出したいのはワクチン接種と症状との生物学的な因果関係であり,バイアスを制御し,因果関係によらない関連を排除した調査研究を行わなくてはならない。そのためには,要因で分けられた群についてフェアな比較を行う必要がある。アウトカムは薬害で,ある程度高いオッズ比が想定され,感度の低い研究でも検出可能と考えた。解析は包括的でロバストなものから行い,その後,前提条件の必要な感度の高い解析へと進めていくこととした。
対象は,名古屋市に住民票があり,ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)ワクチンの無料接種が始まってからの期間に対象年齢であった1994~2000年度生まれの7学年の女性,約7万人である。対象者全員に無記名調査票を郵送し,生まれた年度,記入者,24症状の発症(主アウトカム),症状による病院受診,現在の症状(ない,ときどきある,いつもある),症状の生活への影響,HPVワクチン接種の有無,ワクチン接種の回数と時期,ワクチンの種類,について質問した。症状の選択は,名古屋市を通して連絡会から提出されたものをほぼそのまま用いた。主アウトカムは24症状の発症であるが,アウトカムを多面的にとらえるため,病院受診(以下,受診),現在の症状が「いつもある」か(以下,現症状)についても同様に解析した。
接種年と接種年齢の影響を見るために,重点接種期間に当該年齢であった接種者,非接種者(以下,メインフレーム)に限定して上記解析を繰り返した。次にメインフレームの接種者を年齢と接種年により分割し,同年齢の非接種対照を加えて5つのコホートを形成し,サブグループ解析1を行った。コホート対象者の詳細を論文図 1に示す。また,ワクチン接種前からあった症状を除外してノイズ除去を試みた解析をサブグループ解析2として行った。論文図 2に示すように,接種群はワクチン接種の前後が定義できるが,非接種群ではそれが定義できないため,発症の時間枠をワクチンと無関係なものにしなければフェアな比較はできない。
すなわち,論文図 2の接種群の上から3番目のパターンは「接種前の症状」であり,本来削除すべきものであるが,非接種群との比較性を保つためこれは除外せず解析に含めた。24症状の発症,受診,現症状に対し,早期症状の除外がどのように影響するかを見ることにより,因果関係への考察を深める。すなわち,3つのアウトカムが同じように変化すれば,早期症状の除外により妥当性が高まったと判断し,そうでなければ因果関係によらない関連を検出した可能性を含め,その理由について考察する。
この研究計画は,名古屋市立大学大学院医学研究科倫理審査委員会により承認された。統計解析にはSAS version 9.4を用いた。多変量ロジスティック解析により多重性は考慮せずにオッズ比と95%信頼区間を算出した。
残り5,080文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する