(東京都 F)
【一般的にクリップは浅い位置,入り口が広い動脈瘤,コイルは深い位置の動脈瘤が適応】
脳動脈瘤に対する治療は,頭を開けて行う「クリッピング術」(クリップ)とカテーテルで行う「コイル塞栓術」(コイル)に大きくわけられます。欧米では脳動脈瘤の約80%がコイル塞栓術で治療されていますが,わが国では40~45%がコイル塞栓術と,まだ浸透率は欧米ほどではありません。
一般的な使いわけは動脈瘤の部位と形状で決定されます。
部位に関しては頭蓋骨を開けて比較的浅い場所にできている中大脳動脈はクリップの良い適応になります。内頸動脈では頭蓋底に近い,つまり動脈瘤周辺が骨で囲まれている傍前床突起部などはコイルが選択されますが,発生頻度の高い内頸動脈後交通動脈分岐部ではどちらでの治療も可能で,形状によって方針が異なります。前交通動脈瘤もどちらで行うかは術者によっても判断がわかれます。後方循環である椎骨脳底動脈は深部に瘤ができており,コイルに向いています。
形状では入り口の広い動脈瘤は一般的にはクリップが選択されます。しかし,最近は性能の良いステントが使えるため,入り口の広さの問題はある程度克服されています。よって,ステント併用コイル塞栓術が可能な未破裂脳動脈瘤では,入り口が広くてもコイルが増えつつあります。くも膜下出血を起こしている破裂脳動脈瘤ではステント留置に不可欠な抗血小板薬が使えないため,クリップが第一選択となります。また,血腫を伴う破裂脳動脈瘤も減圧を要するためクリップが選択されます。さらに,瘤から大事な血管が分岐している際もクリップが適しています。
以上,まとめると,クリップの良い適応としては中大脳動脈,入り口の広い,あるいは血腫を伴う破裂脳動脈瘤。コイルの適応としては内頸動脈傍前床突起部,椎骨脳底動脈瘤。それ以外は,形状により,術者の技量や施設のリソースなどによって方針が決定されます。
【回答者】
村山雄一 東京慈恵会医科大学脳神経外科主任教授